『ある日の日常〜温泉旅行編〜』



〜その1〜

 

「う〜…重いですーーー!!」
「重いって…それってどう見ても米袋より重くないでしょ?;」
「気分の問題です!気分の!後、ぶら下げてるだけって振り回す筋肉とは別の部分使ってるんですよー!!」

少し遠出した商店街の中、高校生くらいの年頃であろう少年らが言い争っていた。
1人は食材やらトイレットペーパーやらの詰まった買い物袋を、1人は米袋を二つ程担いでいる。

「リクもカナタも喧嘩しないでね。するなら、家で。」

そしてもう1人は片手に缶詰の詰まったビニール袋、もう片方に大量の補助券を持った少年。

「食材落としたら怒るからね。」
「「はーいっレンさん!;」」

一家の家計を司る一端である存在に、(今のところ)カナタもリク君も逆らうつもりはなかった。…ちなみにもう一端を司るハズミ君に対しては逆らいまくりであるのだが、一体その差はどこから来ているのであろうか?
まあ、それはともかく。
本日彼らは、買出しに来ていた。
子供だけ(といっても7人もいる)で暮らす彼らは、それでもスーパーや商店街等を利用し、立派に節約家として安売り店を巡っている。
しかし、7人もの人間(しかも成長期)が暮らすのだ。
それはもう大々的な買出しになる。
まあ、人件費はただ。という訳で、暇な人間を狩り出して、休日にこうして商店街までやってきているのだ。

「レンさ〜ん…もうコレで買出し終了ですか〜?」
「ああ、うん。 あ、ただハズミから今日あるって言う福引の補助券預かってきてるから、それしてから帰らないと。」

さっきの買い物でまた貯まったし。とレン君が言うと、リク君も気付いたように、じゃらじゃらと音の響く福引所に目をやった。

「ああ、あそこにあったんだ。」
「ならちゃっちゃとやって帰りましょうか!」
「10回分くらいあるなあ…リクがやる?」
「ええええ!?僕が!?僕運悪いよ!?」
「それはそうですねー(笑) あ、僕は両手塞がってますから無理ですよー」
「普段使ってない運が、ここで使えるかもしれないよ。」
「レンー!?;」

何だかんだで、リク君が引く事になった。

「米背負ったリクさんが、また米当てたら面白いですよねー♪(笑)」
「もう持てる場所ないよ!?重量的には持てるけど!;」
「あって悪いもんでもないし、意地でも持って帰るからそのつもりでね、リク!」
「ええー!?;」
「家計の鬼ですね。;」

割と奥様方の注目を集めつつ、3人は福引所に向かう。
そして――――

 

ポロリと転がる金色の玉。

 

「あ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大当たりーーー!!特賞!2組様温泉旅行ペアチケット〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「「ええーーー!?」」

 

驚き過ぎて米袋を落としたリク君は、福引を当てた功労者ながらも、レン君に頭を叩かれた。

 

 

〜その2〜

 

2組様ペアチケット。
分かりにくいが、2×2、つまり4名が温泉旅行へ行けるということだろう。
つまりは、一般的なご家族様向けの商品だ。(ちなみに、残りの景品は全部ポケットティッシュが当たった。)

チケットで行ける温泉は、温泉街としては有名な所で、交通手段も割りと楽に行けそうな場所だ。
連休も近く、一泊二日くらいならば、行って行けないこともない。むしろ、行きやすいくらいだ。

 

―――ここで問題になるのが、このチケットの所有権である。

 

「買い物についてった僕に下さーーーい!!!!!カイルさんと一緒に旅行するんですーーーー!!!!!」
「僕もケイさんと行きたいな…。」
「いやいや、それなら僕だって欲しいよ。一応補助券出してた訳だしさ…」
「「誰と行くの?(ですか?)」」
「いいなぁ…それなら僕もヒロさんと温泉行きたいけど、当てたのはリクだし…リクはいいの?」
「…どうせ僕は、ユーリグさん誘ったってOKしてくれる訳ないし…いいんだ…(涙)」

「ほらー!ナナトさんのが素直じゃないですか!(←論点がずれた) でもチケットは譲りませんけどね!!」
「―――――お前ら煩いんだよ!」
「「ギャー!?;」」

怒れる大魔神と化したユイ君に、弟達はまとめて蹴散らされた。
そんな中、(少し離れていた)レン君はケイさんと行きたいなと言いながらも、その実、「この手の景品って換金出来たっけ?」と妥当な計算を行っていた。
外泊デートなど、中々出来る訳がないのだ。
―――そんな時だった、長男であるアオイ君が(大混乱である)我が家に帰宅したのは。

「…ただいま、」
「あー!アオイさんーーー!!お帰りなさいですーー!聞いて下さいよ!ユイさんが虐めるんですーーー!!」

しゅびっ!とカナタが飛び出し、釣られて弟全員が玄関先で出迎える形になった。

 

「―――――温泉旅行券をもらったんだか…」

 

行くか?一人分多いけど、4組ペアチケット。

「アオイ兄ちゃんっ…」
「「アオイ兄…」」
「アオイちゃん…」
「ん?」

好きっvv
と、4人もの弟にひっし!と飛びつかれたアオイ君は、割と暑苦しいことになった。

 

 

〜その3〜

 

「あーvコレで、もう一組分あったらWで家族旅行になったんでしょうねー♪ …残念でしたね、リクさん…」
「………僕だっていけるものなら行きたいよ!ユーリグさんと!(泣)」
「家族旅行をするんじゃなかったのか?」
「あ〜…アイツらが勝手な夢見てるだけだ、放っといていいぞアオイ。」
「でも、ユイはちゃっかりユウさんと旅行行きそうだね」
「いいなぁ…」

後1組分というチケットに、まだ兄弟は何だかんだと言い合っていた。というか、リク君にチケットが渡らないというが前提条件の会話だ。
しかし、そんな均衡を崩したのは、またもやアオイ君だった。

「もう一組分なら、クラハが貰って帰ったぞ。」
「「「「「「……………」」」」」」

 

――――家族全員で旅行なら、行けるかも?

 

実現しそうになるお泊りデートに、一瞬で血気はやった少年らが家を飛び出した。(…そして飛び出さなかった少年らも「このバカー!;」と叫んで後を追う羽目になった。)

 

 

 

マクドール邸。

 

「温泉のチケットをもらったが、誰か行かないか?」

白粉の香りがほんのりと薫るクラハさんが、居間に揃った兄弟らにそう問いかけた。

「温泉…?」
「旅行ですか?」

テーブルの上に置かれた2枚のチケットを、6人が興味を惹かれたように覗き込む。

「確かこの日は、皆予定が空いてたはずだけど…」

ユーリグさんの言葉に幾人かが頷く。
少し考え、温泉と言えば『温泉饅頭』。ケイさんとクラハさんが行くと良いのではないかという結論に至る。
デュナン家とは違い、マクドール家ではそこまで揉めるような事態はそう起こらない。気質がのんびりしているからだろう。

「え?本当に僕が行ってもいいの?わーお土産買って来るね」
「うんっでも、皆で旅行、行きたいねえ……」
「また次に皆の予定が空いている時に行きましょうか?」
「その時はマオさんも行ける所で…」

にゃぁと答えるように鳴くマオ嬢。
しかし、ふいにその可愛らしい黒い耳が、何かを聞きつけたように、ピンっと動いた。

「誰か来たみたいだな、」

とユウさんが呟いたと同時に、激しくチャイムが鳴り響いた。
…この押し方には覚えがある。

「は〜い」
「待って、ヒロさん。」

笑顔でユーリグさんが、ヒロさんを押しとどめた。

「僕が出るから、」

とても笑顔だ。

 

「こんばんわです!!クラハさんの持ってるチケットを合わせて僕らと旅行――ふぎゃら!!;」
「こんばんわ!家族旅行!!僕もユーリグさんと一緒に温泉んンギャアッ!!;」

 

…当然、足払いで顔面から床に突っ込ませたり、顔面に拳を叩き込んだりした。

 

 

〜その4〜

 

「福引で温泉旅行が当たった?」
「はい、それでアオイ兄がクラハさんと同じようにモデル会社の人からチケットをもらって…」
「残り1組分をクラハさんが貰ったと聞いて、うちの馬鹿共がですね…;」

機嫌があまり良さそうに見えないユーリグさんに、レン君とハズミ君が丁寧に説明を行う。…後ろでは、「鼻血が止まらない…っ!;ああでもユーリグさんの手が僕の顔に…!?」「リクさん!興奮すると余計に鼻血出ますよ!」「ティッシュ!?;」「きゅっ救急箱……!;」等と、慌しいが。

「話はわかったけど…」

ユーリグさんがため息をついて、言葉を切る。
…しかし、周りを見渡した所、「皆で温泉へ行けるの?」という兄弟の期待に満ちた目があった。少なくとも反対する視線ではない。

「………」

少しユーリグさんは考えてから口を開く。

「………でも、うちにはマオがいるから。」

ペットOKの旅館でないと、と断りかけた時、後ろから能天気な声がかかった。

「大丈夫です!漫画で見たことあります!―――赤ん坊に扮装させて連れて行けばいいんですよ!!

 

間。

 

「―――すみません、今確認しました。猫連れでも温泉に連れて入らないなら構わないという事です。後、物を壊した時は弁償ということで。」

よほど寛大な宿だったのか、マオ嬢を連れて行っても良いという返事が返ってきた。
…これでは、ユーリグさんに断る事はできない。(兄弟らの身の安全も大事だが、この人数ということもあり、兄弟の期待に応える方を優先させたいのだ。)

「うん…ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらおうかな…?」

ユーリグさんの言葉に、わ〜♪(イメージ)と喜ぶマクドールさん方だったが………少年らは気付いた。ユーリグさんの目が笑っていないことに。

 

「―――ただし、旅行中は責任を持って監督させてもらうからね。」

 

そう、ユーリグさんは言った。

 

 

〜その5〜

 

とにもかくにも、温泉旅行に行く事にはなった。

 

「よーし!出発ですーーー!!」
「やった〜!ユーリグさんと始めての外泊…っ!!」

当日まで騒ぎ続けた2人は、出発直前になってもまだまだ元気に叫んでいた。
…そして、その後ろでは、そんな2人の暴走を誰が止めるか、その役割についてレン君とハズミ君が互いに押し付けあっている…。割と先行きは暗そうだ。

 

まあ、そんな不安をよそに問題なく旅は進む。

電車、バスを乗り継ぐ間、周りの乗客に迷惑がかからない程度に、両家の間には修学旅行のような騒がしさが満ちていた。

 

「カイルさーん♪♪お菓子食べますかー?」
「ありがと…う!?;カナタ、それはちょっと多いんじゃ…;」
「持って来過ぎてない!?―――って、そっちは何で8人で楽しくトランプ!?ズルイッ!」
「リク君も混ざる?」
「リク君はうちの兄弟に近付かないように!」
「その菓子、少しもらえるか?」
「どうぞですー♪ あああああ!?ユイさんが1人抜け駆けーー!?なんで二人席に!?」
「お前らと一緒だと煩いんだよ。」
「ユウさんはいいのー!?」

 

概ね平和に温泉街へと着いた。

 

 

「おー…」
「無料(ただ)のチケットなのに、割と立派な旅館だねー…」

高級そうではないものの、きれいに掃除もされており、広くて立派な旅館だった。多少古い建物なのが、逆に良い味が出ている感じだ。
感心しているデュナン家の面々に対し、マクドール家の面々は慣れた様子で、旅館の人と会話などをして荷物を預けている。

「―――じゃあ、入る前に。部屋の鍵を渡しておくね。」

にっこりと(マオ嬢をカゴから出しながら)ユーリグさんは言った。移動中ずっと閉じ込められっぱなしだったマオ嬢は、清々したとばかりに大きく伸びをしてユーリグさんの肩に飛び乗るという微笑ましい光景を見せたが…まったく笑えない表情だった。

「はい、部屋の鍵。」

リク君、カイル、レン君、ユイ君、ユウさんの手元にカギが渡された。

「え〜っと…部屋割りは…;」
「カイルさんはルレン兄さんと、マオ(監督役)を預けるからよろしくね?ユウ兄さん達は、4人部屋に。…君たちは慣れた子同士で同室の方が良いでしょう?」

つまり、カイル&ルレンさん(+マオ嬢)が2人部屋、ユウさん&クラハさん&ケイさん&ヒロさんが4人部屋、2主らは2人部屋という事らしい。

「…あれ、ユーリグさんは部屋どうするんですか?」
「僕はハズミ君と2人部屋ね。」

 

………。

 

「「「「「ええーーーーーーーっ!?;」」」」」

 

温泉街に(迷惑な)悲鳴が響く…。

 

 

〜その6〜

 

「…はあ」

ハズミ君はため息をついた。
部屋は自分の家の部屋と変わらないくらいの大きさだったけれども、こざっぱりとしていてキレイだったし、新しい畳の匂いがしてとても気持ちが良い。
…しかし、部屋割りはユーリグさんの宣言通り、ユーリグさんとの2人部屋である。

一応の抵抗はしたのだけれども、

 

『ええええ!?そんな悪いですから僕はコイツらと一緒に2人部屋に行きますよ!;』
『このチケット殆ど君たちのなんだし、その方が悪いよ。』
『はっ反対ーーー!!ハズミとユーリグさんが一つ屋根…いえ部屋?の下なんて!! それならハズミに代わって僕がユーリグさんと同室ぅうべばぁ!!?;』
『リクさんが飛んだーーーー!!;』

 

…ということで、決まってしまった。
ハズミ君は遠い目をした。あのバカタレが余計な事を言わなければ、押し切られなかったかもしれないのに…―――いいや、それでも部屋割りはこうなっていただろう…。
おそらくこれは…監視!
可愛い兄に悪い虫がつかないように、尚且つ。多少の信頼(謙遜)を勝ち得ているハズミ君が同室に選ばれたのだ。
…理屈で言うと、レン君もその候補に上げられていたのだろうが、ハズミ君には呼び出し1回の前科があった為に、こうなったのだろう。

「…何か、最近僕外れクジばっか引いてない?;」

気のせいだろう。

 

 

〜その7〜

 

温泉と言えば、浴衣。
浴衣と言えば、温泉。

この宿にも、勿論浴衣があった。
そして、当然のたしなみとして、それを着る事となった。(…ハズミ君はユーリグさんが戻る前に着替えて、ユーリグさんが着替える前に部屋を出た。)

 

妙に華やかだった。

 

温泉+浴衣という効果がそうさせるのか、自分達と同じ浴衣だというのに何故か色っぽさが強調されている気がする。目がついつい相手の首元を彷徨ってしまう程だ。
羽織りも、男女差があまり強調されていない色の為、うっかり男性客からナンパされてしまいそうな感じだ。

――さて、昼食の時間は過ぎ、夕食にはまだ早いという時刻、これからどうするかというのが目下の悩みだ。
動揺中の少年らに気付かず、マクドールさんらは考えた。

「温泉饅頭の食べ歩きして来て良い?」
「温泉卵もな。」

シャキーン!とケイさんとクラハさんが食べ歩きマップを片手に挙手した。

「僕は温泉に…」
「大きいお風呂っ……!」

そっと手を上げるカイルと、あひるさん(お風呂セット)を抱えて目を輝かせるルレンさん。
張り切り観光チームと、まったり温泉組に分かれることになりそうだ。
お出かけ組はクラハさん、ケイさん、ユウさん、アオイ君、レン君、ユイ君の6人と、お風呂組は残り8人という…作為的な何かを感じるグループ分けだ。
その辺りを気にするユーリグさんはと言えば、何よりも今は目の前の2人を危険視していた…。

 

「カイルさんとお風呂ーーー!!」
「ユーリグさん!お背中流しますね!!変な事はしませんから!!」

 

危険人物は排除。
ユーリグさんの拳が唸る前に、5つ子の内2名が走った。
保身に。
…まあとにかく、「ギャー!;」とか「わー!!;」とか悲鳴が上がり、カナタとリク君は予備の帯で縛り上げられ部屋の中に転がされる羽目になった。

「お風呂から上がったら解いてあげるからさー。」
「それじゃ遅すぎますよーーー!!!!;」
「カムバーック!!;ハズミーーー!!!」

結論『人間誰しも自分が可愛い。』(2人の犠牲で済むなら肉親だろうと容赦はしない。チーン。)

 

 

 

(続)