『ある日の日常〜温泉旅行編〜』
〜その8〜
大浴場の他に小さいながらも露天風呂も付いていた、その温泉の中で一行は旅と日常の疲れを癒していた。
始めはカナタとリク君を気にしていたルレンさんやカイルも、今ではのんびりとお湯を楽しんでいる。
周りに伸びた木々がたまに葉を散らし、湯船の上にふわりと浮かぶ様は、何とはなしに風情のあるものに見える。
―――そんな中。「……………」
ピトッと、鼻の頭に木の葉にくっついて来られたハズミ君は、黙ってそれを外し岩場の外へと放った。
「まだお客さん少ない時間だから、のんびり入れるね!」
「…あの、ユーリグさん…どうして、ずっと出入り口の方を見ているんですか…?」
「…変態が……いえ、誰が入ってくるかなって思って(にこっ)」(一部冷気を放っているが)華やかな入浴の光景に、ついついハズミ君は岩とお友達になってしまう。
何というか…思春期を迎えた小学生が水戸●門のお風呂シーンを見たような気持ちになっている。こう、健全と不健全の狭間で揺れるというか…。
故に、さりげなーく、岩場に肘と頭を乗せ、外の景色を見ていますといったポーズをとっているのだ。
始めはあわあわしていたナナト君は、しばらくして馴染み、今ではヒロさんやカイルとお湯の効能について話していたりする。素直さの勝利だ。
あまりにも早く上がると、何か騒動が起こったとしても止められず、物凄い騒ぎに発展しかねない為に温泉に浸かっているのだが………―――いや、もう見捨てようかな、そこまで愚弟の面倒見る義理はないし。とハズミ君は弟を見放しかけた。
そんなハズミ君に、不意に声がかけられた。「ハズミ」
ぶわっしゃん!!
「はっハズミ大丈夫……っ!?」
「る、るれんさん……っ」驚いて肘を滑らし、溺れかけたハズミ君だ。何故だか目のやり場にも困っている。
「……あの……隅の方にいるから、どうしたのかなと思って……」
「いえその、ここの風景が気に入って……;」あひるちゃん付で現れたルレンさんに、どもりながらもそう答える。
「ほんとだ、キレイな木だね……!」
ちょこんと隣に並ぶルレンさん。
視力の関係で距離感覚が上手く掴めていないのか、肩が当たるか当たらないかというギリギリの距離だ。
…息を吸う。吐く。吸う。吐く。「ルレンさんは、温泉好きなんですか?」
「う、んっ……皆で温泉に入るの、楽しいから……」ほんわ〜vと笑うルレンさんは、どこか癒されるものがある。
「あのね、向こうにヒノキ風呂もあるんだって。よかったらハズミも行かない?」
「―――――」思わず返事をしかけたハズミ君だったが―――ーそれは所謂家族風呂というヤツで。密着度がとても高い小さなお風呂だった。
2人なら余裕だろうが、3人で入るのには少し辛いというサイズだ。
そこに行くとなると、―――2人きりになるわけで………
(見てるっ見てるよっ!!;ユーリグさんが!!;)
冷たい視線が背中に刺さり、ハズミ君は硬直した。
その沈黙を否定ととったのか、ルレンさんは一瞬でしおれた花のようにしゅんとした。「ご、ごめん……!迷惑、だったよね……!」
「ちょ、ルレンさん!?;」立ち上がり(頭に乗せていたタオルを腰に巻くと)2人はバシャバシャとお湯の中を走った。
そして、ルレンさんは上がる場所ではない岩場に足をかけ、一気に温泉から脱出した。が。
「あっ!そこ滑りますよ!!」
「―――ふゃっ!」
すってん!べしゃーっ☆
「ルレン兄さん!?」
「大丈夫っ…!?;」通路でひっくり返り、ルレンさんを支えようとしたハズミ君ごと、両者共に転んでしまっていた。守ろうとした甲斐だけあってハズミ君を下敷きにルレンさんは無傷だったが―――…体勢が。
「はっハズミっ!大丈夫っ!?ご、ごめんねっ……」
「いえ…大丈夫、です……」ルレンさんが、ハズミ君の上に乗ってしまっていた。(しかも裸体。)
湯船で熱った背中や足が、膝や腹に当たっている訳で………………………ハズミ君はふうっと意識が遠くなった。(精神的に)
「ギャー!!な、なんてことを!(ハズミがラッキースケベに…っ!)」
「ナナト?」そして、それを見ていたナナト君があわわわわ焦った。目の前のどたばたコメディ(少女漫画仕立て)に、混乱するしかない様子だ。
〜その9〜
ふらふらとした足取りのハズミ君を心配そうにして一緒に上がるルレンさん。その後ろに続いてカイルとユーリグさんも上がっていた。
「ヒロさんはどうします?」
「僕はもうしばらく入ってようかな〜」
「あ、じゃあ僕も!」挙手してナナト君。
「……………のぼせない内に、上がってきてくださいね。」
ユーリグさんはしばらく何か考えるそぶりを見せたものの、微笑んでそう言った。
…おそらく目前の敵よりも手ごわい敵がいるからだろう。
そうしてナナト君とヒロさんは2人きりになり―――「貸切だね〜」
「そうですね〜」のほーんと平和な入浴を続けた。
一方その頃のお出かけ組。
「このお饅頭…持って帰る用に買っておかないとね!」
「今食べる分も忘れずにな。…あとここの限定アイスが食べたいんだが。」
「…程ほどにな。」程ほどに。―――そうは言うものの、2人が買い食いしている量は、夕食と言っても過言ではない程の食べっぷりだ。(配分はケイさん:クラハさん=1:3くらいだが。)
温泉卵も、1つではなく1パック分購入し、2人で半熟や固ゆで塩有やなしで、楽しんで食べてしまっている。
2人でもう1パック♪となたところで、ユウさんが止めに入る感じだ。…少し遅いのではないかとデュナン家の人間は心の中で思っていたりする。まあ、ともかく平穏な散歩だ。
カランコロン♪と楽しげな下駄の音が響き続け、一行はふと遊技場の通りに差し掛かった。
射的や的当て、輪投げなどの子供向けの遊び場だったが、その中の射的の前でケイさんが驚いた顔で立ち止まった。「ケイさん?どうしたんですか?」
「レン君…アレを見て」輪投げの景品の中に、―――何故かまんじゅうがあったのだ。
子供向けのヒーロー・ヒロインのおもちゃや、ラムネや小さなマスコットの中で、それは一際異彩を放っていた。
他にも土産用のお菓子が並んでいたため、この店の特色と言えば特色なのだろうが………微妙だ。子供は狙わないだろう。
まあとにかく。縦方向に長い4個箱入りの饅頭があったのだ。「やらないと」
目を輝かせてケイさんはそう宣言し、サイフから硬貨を3枚取り出した。
止める間もない勢いだ。(誰も止める気はないが)「―――よいっしょ」
ケイさんは一生懸命身を乗り出してまんじゅうの箱を狙う。
―――が。
身を乗り出すのと同時に、浴衣の裾からチラチラと素足が見え隠れしている。
「ケイさん…!!」
「え?」何?と必死の表情なケイさんが振り返り………その拍子に、曲げた膝にスルリと浴衣の裾が落ちた。
形の良いふくらはぎが露になった。「僕が手伝いますから…!」
「ほんと?頑張って沢山とろうね」足をしまって欲しい。…そう言えないレン君だった。
楽しそうだな、という視線を弟に送りながらユウさんは、ベンチにゆったりと座っていた。
長くなるだろう事はわかっているので、完全にくつろぎ体勢だ。(もう5つ程輪がまんじゅうにかかっている)
そのまま黙ったまま2人の輪投げっぷりを見ていると―――――後ろからぬっと何かが差し出された。
目をぱちくりさせて、それを見つめてみると――…大きな某クマのぬいぐるみだった。ハチミツを抱えた姿が愛らしい。
続いてそれを差し出している相手を見る。「ユイ?」
「やるよ。 狙ってたヤツと違ったんで、もらってくれ。」うっかり倒しすぎた。と、ユイ君が視線で示すのは…どうやったのか一段全部倒れ落ちた射的の的と、男泣きをする店主の姿だった。
「いいのか?」
「ああ。俺が持ってたってしょうがない。」
「…そうか。」そう言ってユウさんはぬいぐるみを受け取った。案外ユイ君がぬいぐるみを持っていたとしても、似合うんじゃないだろうか?と思ったように首を傾げている。
が、大きなぬいぐるみを膝の上に乗せると、ユウさんはふと何かを思い出したようにクスクス笑った。「何だよ?」
「いや、別に。ありがとう、ユイ。」
「……………」
「……………」そして、そんな2組を平和だな…とアオイ君とクラハさんが見つめていた。
そんな2人も、茶店でもむもむと並んで団子を食べていて、かなり平和な様子を見せていた…。
〜その10〜
お出かけ組みも入浴し、何だかんだの末に夕食となった。
「それじゃー無事に家族旅行が出来たことを祝して!カンパーイ!(泣)」
なんだかやけっぱち気味にカナタがそう言い、周りのものは(それには気付かず)楽しげに乾杯と応えた。
空いていたという事で、わざわざ宿の人が全員で夕食を食べられるよう、大広間を使わせてくれたのだ。
さすがにユーリグさんの目があり、デュナン家とマクドール家が混在して座る事はなかったが、そこはかとなく仲の良い者同士が正面に向き合っている。
…2名を除いては。「あの…ユーリグさん、せっかくの旅行ですしーv;カイルさんと席代わるとか、僕と席代わるとか、僕とリクさんが席チェンジするのを許可してくださる気は〜…」
「あると思う?」にっこり。顔は笑っているが、非常にピリピリしている。
ですよね〜(泣)と、カナタは涙と共にオレンジジュースを飲み干すばかりだ。ちなみに、隣のリク君も同じ様子だ。まあ、一部はそんな感じだったが、海の幸がふんだんに使われた素朴な料理に、場は和気藹々とした空気が流れていたりする。
「あの、ユウさんそのぬいぐるみ、どうしたんですか?」
「これか?ユイからもらったんだが…この間ハチミツをつまみ食いしていたルレンを彷彿させてな。つい持ち歩いてしまった。」ナナト君の質問に、ユウさんは「可愛かったぞ」とサラリと答えた。
「え…つか、それってもしかして素手で食べ…?;」
「あの、その……いつもはしないよ?でも、その時はスプーンがなくて……!」
「僕はレン君と輪投げをしたよ。後、的当てとかもあったかな?」
「おもしろそう!明日行ってみようか?」
「あのっ!的当てなら、僕得意ですよっ…!」
「野球部の準レギュラーが的外す方が問題だろうな。」
「………(もぐもぐもぐもぐ♪)」
「…クラハ、一体どこにその量が入ってるんだ?」
そんな感じである。ほのぼのである。
(こっ…このままじゃダメですっ…!;周りに異様に置いてかれてます…っ!!;)
(ユーリグさんとまともに目すら合わせられてない!?;っ…このままじゃっ!!;)2人はキラリと目を合わせた。(その輝きが涙でなかったことを信じたい。)
「…カイルさん♪」
「?」
「……………」カナタがカイルに声をかける。
途端に横(カナタにとっては正面)のユーリグさんの眼光が鋭くなった。「この天ぷらおいしいですよvカイルさんはコレ好きですか♪?」
「え、うん…?」
「じゃあ♪―――はい、あ〜んvです☆」
「えっ!?;」ラブラブ☆…というより、なんだかセクハラだ。
当然、止めさせようとユーリグさんはすっくと立ち上がったが、それと共にリク君も立ち上がった。「ユーリグさん!」
「…何?」止める気?とユーリグさんが、ちらりとリク君を見た、…途端。
「僕を殴ってください!!」
………。
「………あれ!?;いい間違えっ…!!;」
「っ……このッ変態!!!!(怒)」望みどおり、リク君は殴られてしまった。
一体何と言い間違えたのかは…永遠の謎のままだ。「ふうっ!囮作戦成功ですね!」
もぐもぐと逆にカイルから食べさせてもらいつつ、カナタは人でなしな発言をした。
「カナタもリクも、基本的に何か行動を取り間違えてるよ…。」
「…幸せは、人の犠牲の上に成り立ってるもんなんです…v」
「…カナタ…(汗)」何をどう諌めれば言いのかわからないカイルも、「そうかもね…」と呟いたレン君も、―――次の矛先をカナタに向けているユーリグさんについて、カナタに何も告げる事はなかった………。
〜その11〜
「それじゃあ、おやすみ」
何だかんだで8時となった為、ユーリグさんは言外に早く部屋に入って♪と、笑顔で告げている。
マクドールさん方には優しく、2主には追い立てるように。
しかも念押しのごとく、マオ嬢に「変な人が入ってこないように見張っててね」とまで言って撫でている。
…というか、寝るには早すぎる時間だ。(誰も異を唱えないが)「じゃあ行こうか、ハズミ君。」
「あ、はい…;」ハズミ君は微妙な表情(どことなく屠殺場に向かう食用動物の足取りに似ている)でユーリグさんに引きずられて行った。
「くぅっ…!ハズミのヤツ〜(泣)」
「大丈夫です…!我に策ありです!」
で。
「…ダウトだ。ナナト」
「〜〜つ、強すぎます!;」そんな小細工など必要のない者らは、4人部屋で和気藹々と遊んでいた。
どちらから遊びに誘ったのかも、定かではない感じだが、そこまで広くはない部屋に8人もの人口が集まっていた。「一緒に残っちゃったね」
「そうですね〜」というか、この手のゲームをするには、ポーカーフェイスのうまい者ばかりの為、ナナト君やヒロさんには非常に不利だ。
「2人で勝負するのは無理だと思うが、どうする?」
お互いの手札が分かっているのだから、とクラハさん。
「ううん、やっぱり2人でも最後までやらないと!ね、ナナト?」
「え、あっはい!!」ヒロさんと2人で…!とナナト君はそこはかとなく喜んだ。
一方、その頃のルレンさんとカイル(+マオ嬢)。
「かわいい……!」
「ふ、ふわふわが…!」2人で、動物番組を見つつ、マオ嬢をまふまふと撫で続けていた。
そんなカイルだったが、ふとケータイにメールが届いている事に気がついた。「あれ…?」
「メールが着てるの……?」マナーモードにしていたため、気付くのが遅れたが、確かにルレンさんの言うようにメールが来ていた。
『 カイルさんへv
部屋で一緒に遊びませんか♪?
BYカナタ 』
と。
〜その12〜
「ハズミ君、奥の布団が良い?」
「あ、いやどっちでも結構です……;」微妙な緊張感が漂う中、2人はそれでもテキパキと荷物の整理やら布団の準備やらを行っていた。
そして、それを終えると、ユーリグさんはすっくと立ち上がった。「―――さて、と」
「どこか行くんですか?」
「うん、ちょっと夜の見回りにね。」
「……いや、そんな修学旅行じゃないんですから;」
「うーん…でも、何か嫌な予感がしてね、」固い意志を見せるユーリグさんに、ハズミ君は止める事を諦める。…止めても止まるものではないだろう。
「それじゃあ行ってくるね、」
「いってらっしゃーい;」スタスタバッタン!と部屋を出て行ったユーリグさんを見送り、ハズミ君は力尽きたように布団の上に倒れた。
―――そんな中…トントン、
と、ノックの音が響いた。
「はーい?」
その音でハズミ君は立ち上がるが…
ユーリグさんが帰ってきたにしては、ノックをするのはおかしい気がする。いや、ノックをしてもすぐに入ってくるのではないだろうか?(自分の部屋なのだし)
訝しく思うものの、もしや出た直後に覗き行為を働こうとしていた愚弟を打ち倒し、手が塞がった状態でいるのかもしれない…と、ハズミ君は考えた。
嫌な予感に汗が流れるものの、ハズミ君は至って平常にドアを開けた。「何か忘れ物ですか――――って」
「こんばんわ、ハズミ。遊びに来たよ……!」
「お邪魔します…」マオ嬢をぬいぐるみのように抱っこしたルレンさん(身長的に上目遣い)を直視し、ハズミ君は一瞬フリーズした。
「る、ルレンさんにカイルさん!?なんでここに!?」
「それは僕らが誘ったからですよ!火を隠すなら森の中「それだと山火事になるだろ!?」ユーリグさん在住の部屋で遊んでいるとなると無下に追い出されることもないはずです!!」
「僕もユーリグさんと同じ部屋に居られるしね!!」
「さあ!ユーリグさんが戻らないうちになし崩し的な感じで部屋の中へ!!」確信犯かよ!というようなカナタの発言に、ハズミ君は、今夜は平穏な夜を過ごすのは無理だろう事を確信した……。
(続)