『ある日の日常〜温泉旅行編〜』

 

 

〜その13〜

 

「―――何でこの部屋に6人も集まってるんですか!?」

「え、なんとなく…」
「大勢の方が楽しいだろう?」
「わっ!ユーリグさん!!;」

心の中にやましいものでもあったのか、ナナト君が驚きの声をあげる。(いや、ただ単に驚いただけだと思われるが…)

「レン君はケイさんと何してるの!?」
「いえっ腕相撲を…;」
「それにクラハ兄さんは!?」
「アオイ君と一緒にもう一度お風呂に入りに行ったよ?」
「2人で!?」
「落ち着け、ユーリグ。子供ではないんだし、2人で行っても危険はないだろう。」

わーわー!;と、混乱し…何だかんだと話し合った末、結局「寝る時間になったら、解散してくださいね…;」と気疲れしたユーリグさんが折れた。
幾ら温泉で疲れが癒えたとしても、このままではまた疲れが溜まってしまうことだろう…そんなユーリグさんが自室に戻った時…

 

「ユーリグさん!お待ちしてましたーーー!!」
「お邪魔してます〜♪」
「……………」

 

…無人の部屋を見て、嫌な予感はしていた…。

能天気な顔を見たユーリグさんは、「お帰りなさい…!」と声をかけてくる兄弟らがいなければ、その顔を思いっきり踏みつけていたことだろう…。

 

 

〜その14〜

 

「それで?何でここに君たちがいるの?」
「いえっ!;遊びに来たんですよ!遊びに!!旅行と言えば夜更かしですから!;」

色々あって疲れているのか…ユーリグさんは容赦なくリク君を枕で撃沈させていた。軽い枕だというのに、物凄い威力だ。その威力にカナタは両手を上げて(降参ポーズ)ペラペラ喋った。

「今はね、ハズミの中学校の時の話を聞いてたんだ……」
「ぷーっ!そうですっ!あのですね、ハズミさんは修学旅行の時に…〜〜あだだだだだ!!;もげますよッ!ハズミさんーー!」
「……………」

騒いでいる一同と、困ったような表情でユーリグさんを見上げているカイルの姿を見て、ユーリグさんは1つ息を吐いた。…腹を括ったようだ。

 

 

「こうしてると、修学旅行みたいですねー♪」
「ああ、あのカナタがキャンプファイヤーにイモ投げ込んだアレね…」
「おイモ?」
「あの時なんでか僕まで怒られたんだけどね…(泣)」
「一連托生ってヤツですよ!」
「濡れ衣だよ!?;―――あ、あのユーリグさん…達は修学旅行とかどうでした?」
「…特に問題は起きなかったけど?」

スパーン!とユーリグさんは会話を切った。こう、背中にルレンさんとカイルを隠している為、子猫を守る親猫のような様子だ。ユーリグさんがピリピリしているからか、マオ嬢までも「ママをいじめるなんて!」と毛を逆立てて警戒している。

「あの、ユーリグさん…コイツらは近づけさせないんで!もう少し穏便に!;身体に障りますよ!?;」
「これはこれでもー面白いような気もしますけどねー!(泣笑)」

カナタはヤケクソ気味に、ティッシュで作ったこよりをマオ嬢の前でピロピロさせている。(当然マオ嬢がカーッ!と興奮して、ビシビシこよりを叩いている。)

「ええっと…;小学校の時の修学旅行なら、奈良公園が楽しかったよ…?;」

フォローをするようにカイルが話を継いだ。(ついでに、ルレンさんが手作りこよりとマオ嬢を継いだ)

「鹿がいっぱいいたよね……」
「クラスに1人は鹿に追いかけられるヤツがいませんでした?」
「え?うん……」
「僕らの時はリクが追いかけられたんですよ、」

場が少し和んだので、ハズミ君も話を続ける。

「追いかけられるって…リク君、もしかして鹿にも何かしたの?」
「ちがっ!?;って、「も」ってなんですか!?ユーリグさんひょっとして僕を節操のない変態か何かだと思ってるんですか!?;っていうか!アレはカナタが僕の背中にシカせんべいを貼り付けてたからで…!」
「あははーv若気の至りってヤツですよーvていうか、シカせんべいマズイですよね。昔は新聞紙入ってましたし。」
「食べたの!?;」

 

まあ、そんな雰囲気の中でも、話を続けていれば何だかんだで談笑になる。(多少話しにくくはあったが)
それも時間が経つにつれ、緊張感も和らぎ、妙なテンションの会話にまで発展していた。

 

「1番!カナタ歌いまーす!」
「あのユーリグさん!好きなタイプとか聞いていいですか!?」
「ノーコメント!(怒)」←多少譲歩
「恋焦がれてしーまーうーよー!ハートのエースぅーーー♪」
「カナタっ;夜だから静かにしてっ…!;」
「というか、よく人前で歌えるよね…音痴なのに。」
「何の歌なの……?」
「マオが驚いてるから歌は止めること!」

…混沌としているが、楽しそうではある。
しかし、楽しい時間は長くは続かず―――…

 

まだ旅行という事で、頑張ったのだろうけれども、普段夜更かしをしないカイルがうつらうつらとし始めた。

「ルレン兄さん、カイルさんも眠そうだから、解散してね。」
「カイルさん!部屋まで送りグビャア!;」

見事なアッパーカットが決まった。

「大丈夫?部屋まで戻れる?」
「大丈夫です…おやすみなさい……」
「うん、おやすみユーリグ。」

ふにふにしながら歩くカイルと、夜型の為割としっかりした足取りで歩くルレンさん。ある意味正しい兄弟の状態の気もしないでもない。

「ハズミっ…僕と部屋をっ…!」
「無理だよ!ていうか、僕も眠いし!;」

だから早く部屋に戻れとばかりに、その日は解散となった。
とりあえず、死人も怪我人もでなかったので、なんとか平穏に終わった方だろう。(多分)

 

 

〜その15〜

 

「………」

ふっとカイルは目を開いた。
ひんやりとした冷えた空気と、見知らぬ天井を見て、そういえば旅行に来ていたのだという事を思い出した。
枕もとの携帯で時間を確認してみると、起きるには早いが、寝直すのには遅いという時間だった。カイルは思い切って起きてみる事にした。
寝ているルレンさんの布団を肩までかけなおし、起こさないようにそのままそっと洗面台へ向かう。…途中、眠りながらも耳をピクピクさせているマオ嬢を撫でたくなる衝動に駆られたものの、何とか誘惑に打ち勝ち、カイルは1人早朝の散歩に出かけた。

 

が。

 

「あっ!カイルさん♪おはようございますー☆」
「、カナタ…おはよう、」
「散歩ですか??」

何故だかカナタが居た。

「うん…カナタは?」
「僕もです♪早起きはレンさんとハズミさんの専売特許なんですけどね〜。何かいつもと違う場所だと、起きやすいんですよ〜」
「そうだね…」

同じ理由で起きているらしいことを聞き、カイルは少し微笑んだ。

「良かったら一緒に行きませんか♪」
「うん、」
「レッツゴー!朝の探険ですー!」
「探険なの?;」

浴衣のままはおりだけを羽織って、2人は朝の散歩へ繰り出す事になった。

 

人気のない早朝の澄んだ空気の中、ザァアと音を立てて流れる川沿いを歩く。
さすがに肌寒く、普段着に着替えてから散歩に出れば良かったと思わせるような気温だ。歩く度に袖口からひんやりとした空気が入ってくる。

「まだ殆ど誰も歩いてませんねー」
「早い時間だから…」
「でも、それでカイルさんと早朝デートできたんですからラッキーでした〜♪」
「………え?」

デートだったの…?と、今更気付いたカイルだ。

「そうですよー♪というわけでー」

きゅっと手を握られた。
ふわりと暖かい温度が伝わってくる。

「これくらいは有りってことで!」
「………うん、」

にこにこと笑うカナタに釣られ、カイルも小さく微笑んだ。

「…ていうか、これ以上の行為は命に関わりますからね…;」
「え?」
「なんでもないですー♪」

…しかし、(カナタの配慮も意味を成さず)当然この早朝デートはユーリグさんにバレ、無断外出についてとくとくと説教をされることとなったのだ…。(カナタが

 

 

〜その16〜

 

「朝から元気だな。」

ぽんぽん、と茶碗にご飯を盛り付けるクラハさんの手付きは、いやに手馴れた風だった。
クラハさんの視線の先には、正座でユーリグさんからの説教を黙々と受けるカナタの姿があったりする。

「よし、アオイで最後か。」

自分でよそうというアオイ君に、首を振ってクラハさんは素早く茶碗にご飯をよそい、残りのおひつを隣に置いた。

「おかわりをする者はいるか?」
「多分したい気もしますけど、今それどころじゃないんでいいですー;」
「聞いてる?カナタ君。」
「はいっ!;でもですねー健全なお付き合いの上でもデートの1つや2つくらい…」
「カナタ君?」
「ごめんなさいです!!;」

まあそんな会話を聞いて、クラハさんはうむと1つ頷く。
どうやらおひつを全て片付けてしまうようだ。
この細い体のどこにあの量が入るのかと、マジマジとアオイ君がクラハさんを見つめていたところ…

「アオイもおかわりが欲しいのか?」
「いや…」

ふと、クラハさんの頬にご飯粒がついていることに気付く。

「頬に米粒が―――」

アオイ君がクラハさんに手を伸ばした時、

 

―――――何故か周囲の視線(特に兄弟らの)がアオイ君に集中していた。

 

「……………」
「米粒?――ああ、本当だ。」

謎の好奇に晒され、アオイ君はそのままの体勢で固まってしまった。

「よく見るとアオイ兄照れてるよね?」
「いいとこだった気もしますー」
「アオイ兄までっ…!(泣)」
「……………」

割と好き勝手に言われる長男アオイ君だった…。

 

 

〜その17〜

リク君は涙に暮れていた。
帰りの道のりの中、なんとナナト君までヒロさんに肩に寄りかかって眠られるというハプニングを体験し、旅行はラブイベントに彩られていた―――それなのに、かれには何のラブイベントも待ち受けていなかったのだ。

(一応僕が当てたのにっ…!;)

温泉ラブどころか、殴られたり蹴られたり避けられたりのマイナスイベントばかりだ。同じように目をつけられていたカナタは、マイナスをプラス(単独デート)に変えたというのに!(ちなみに他の兄弟らは明らかにプラスイベントばかりだった。)
そこには何かの陰謀を感じさせる気がする。

(席まで離されて…!)

監視の意味を兼ねるのか、ビッチリとカナタを窓側の席に追いやり座るユーリグさん。

「うううううう…(泣)」
「リク…気分悪いなら、早めにトイレ行きなよ。」

無慈悲に声をかけてくる兄弟が誰なのか、それすら涙で判別が付かなかった。

 

 

日が落ちた町中…バス停から歩いてほとほとと帰っている中、実際の重さ以上にお土産の詰まったカバンが重い…。
せめて家に帰り着くまでに一会話くらいは!と思ったものの、ユーリグさんは他の兄弟たちのガードに忙しくて、ソレどころではない。
しかも、そう長い距離ではない道のりに、何の進展もないまま、お互いの家の前にまで辿り着いてしまった。
別れの挨拶をしてそのまま解散となり、リク君は肩を落としてのろのろと兄弟らの後へ続こうとした。―――その時に、声がかけられた。

「リク君、」
「――――」

この(夢にまで見た)声は―――…

「ゆ、ユーリグさん!?」

バッと顔を上げ、ドキドキして相手を見た。
そこには割りと疲れた様子ながらも、少しばかり複雑な笑みを浮かべたユーリグさんの姿があった。

「…色々あったけど、皆楽しめてたみたいだったし…リク君が福引を当てたことから始まったんだし、お礼を言っておこうと思って。」
「……………」
「―――誘ってくれてありがとう、リク君。」

夢だろうかと思った。

「それじゃあ。」

(例え、それだけ言い残してあっさり踵を返されたとしても)確かにユーリグさんは、リク君に向かって微笑んだ訳で―――…

「〜〜〜〜〜〜」
「リクさーん、早く入らないと締め出されちゃいますよー…―――って、リクさーん?………ぎゃーーー!!!!;リクさんが鼻血噴いて家の前で倒れてますー!しかも何か笑ってて恐ーーーッッ!!;」
「救急車!?」
「そのまま道に転がしとけ。」

デュナン家は阿鼻叫喚となったものの、リク君は幸せな気分で倒れることとなった。(…アオイ君と会社の人には後日別にお礼が届けられたらしいが…)

 

 

これにて一件落着!(完)