『ある日の日常〜追憶編〜』

 

 

誰もが皆、人と同じものが見えている訳ではない、
そう気付いたのは、まだ幼い頃だった。

 

『ウソツキ!』

 

言った方も言われた側も、傷ついたその言葉は、未だに心に縛りついていて離れない。
それは、おそらく兄のユーリグさんも同じだろう。

 

 

 

意識して見てみれば、当たり前のように視えるその光景。
幼い頃は、見えている状態が常だった。
浮遊していたり、影の中にたたずむもの、害のあるものないもの…そんな何かが見える。
怖くはない、それが普通のことだから。
兄のユーリグさんに、クラハさんにも(同じものが視えているかはわからないが、)視えている為、それらは確かに存在するものなのだろう。
………ただ、視えない者の方が圧倒的に多いというだけで、

 

幼い頃に投げかけられた言葉、
それを思うとチリチリと心が痛む。
幼過ぎて、何のタイミングでそれがわかったのかは忘れてしまったけれど、あれは視えてはいけないものだった。
視えてはいても、視えないものとして振舞わなければならなかった。
そのせいで、同じく幼かった兄のケイさんを、危険な目に合わせてしまう所だったのだから…(子供1人であんな時間に迷子になれば、事故や事件に巻き込まれていたかもしれない)
家を飛び出したまま帰って来ないケイさんに、不安で泣き出してしまったのはカイルだけではなくユーリグさんもだった。

―――もう二度と、ケイさんの前ではあれらのことは口に出さない、

それは言葉にせずとも、ユウさん(とグレミオ)に連れられて戻ってきた、ケイさんの無事な姿を見て、ユーリグさんと誓ったことだ。

 

 

「………」

ふらりと揺れる火の玉から視線を外す。
視界の端を掠めた為、またうっかりとそれらに焦点があってしまったようだ。
カイルはゆっくりとそれから視線を外す。

「―――カイルさんって、たまに何もない所見てますよね〜?」
「…そう?」

隣を歩いていた少年からかけられた言葉に、カイルは少し困ったように微笑んで返答する。

「何か、にゃんこさんみたいですねーvvそう言えば、にゃんこと言えば――」
「、」

―――進む方向に、何かゾワリとしたものを感じた。

「カナタ…」

こちらに行ってはいけない。
よくないものが居る。
カナタの学生服の袖口をそっと掴んで、足を止める。

「カイルさん!?(一次接触間近が何か嬉しいです!?)」
「違う道から、帰ろう?」

何故かドギマギとした反応を見せる少年にそう提案する。
…通れないことはないけれども、妙な仕草を見られては問題があるかもしれない。

「え?何でですか?? …なんか変なのがいるとかですか!?」

不良だったら僕が倒してあげます!と力強く言うカナタに、カイルは当たり障りのない言葉で誤魔化すのも憚られた。

「その…」

――どうしよう…

チクチクと心が痛い。

――『ウソツキ!』

嘘は吐きたくない、でも言ってはいけない…

 

「……………………もしかして、その…お化けとかその手の関係だとか…っ?」

 

どう言ったらいいのかと悩んでいると、カナタは1人でその答えに辿り着いてしまった…。

「そう、って言ったら…?」

どうするの?
困惑した頭から、そんな言葉が口をついた。

瞬間、

「ぎゃーーーー!!;」

少年は、盛大に悲鳴を上げた。
… そして、カイルに抱きついて来た。

「ひゃあっ!カナタ!?」
「いやあのそのっ!大丈夫ですよ!?怖くないです!!カイルさんは僕が守りますーーッッ!!」
「そうじゃなくて…ここ、道だから…離れてっ…、それに、視えてる僕も怖いと思うんだけどっ…」
「カイルさんは怖くないですよ!?ただお化けが怖いだけで!!いえっ怖くないですーーーーッ!!!!」
「――――、」

混乱しながらも、何気なく言われた言葉が嬉しかった…。
多分、そういうことなのだろう…

 

怖いと否定されたのは、視えていたそれらで…――
自分達ではなかったのだと、誰かに肯定して欲しかった…。

 

「…帰ろう?」
「はいっ!!後!ちょっと遠回りするならその間デートを希望しますッ!!」

しっかりと手を繋ぎながら、来た道をまた戻る。
その手の暖かさが、とても嬉しい。

…今日のことは、ユーリグさんに言ってみると良いかもしれない。
少し複雑そうな表情をしても、きっと、笑ってくれるから。