『ある日の日常〜バレンタイン編〜』

 

「カイルさんvバレンタインに僕にチョコくれますよね♪」

「え…; それはちょっと…」

 

―――と、カイルが返事を下途端、カナタはムンクの叫びと同じポーズで固まった。

 

「カナタっ!?;しっかりして!!;」

慌てたカイルが、ガックンガックンと肩を揺すると、ようやく少年は息を吹き返した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜なっ、なんでですかー!?(泣)」

そして、号泣した。

「………………アレを、見て…;」

カイルはそっと指差す。
事情を説明する為に、まずカナタの視線をちょうど通りかかった製菓店へと向けさせた。

 

――――そこは、さながら戦場であった…。

 

手作りチョコを作ろうと、学校帰りの女の子達が、楽しそうにチョココーナーを巡り、何を作ろうかと囁きあっているのだ…。
振りまくオーラはピンク色で、どことなくお花畑のような世界――…

「…あそこに入るのは、ちょっと…;」
「わーーーーん!!(泣)愛が足りませーーーん!!!!(号泣)」

納得させられたカナタは、それでも納得できないと大泣きだ。

「ケーキとかクッキーなら、(※家に材料があるから)大丈夫だけど…;」
「チョコがいいんですーーー!!!!!(泣)」

―――製菓店の前で、少年からチョコが欲しいと訴えられるカイルは、年下の彼氏からねだられる恋人同士そのままとして映っており、非常に目立っていた…。
そして、周りの(微笑ましそうな)視線に負けたカイルは、チョコを渡す事をついに了承してしまうのだった…。…その場からすぐに移動したものの……どうせ目立ってしまったなら、その時に買ってしまえば良かったと気付くのは、既に帰宅してからのことだった。

 

 

う〜ん;とカイルは悩む。
普通の板チョコや生クリームを使用するようなチョコ菓子を作るならば、スーパー等でどうにかなったのだけれども。少年が求めたものは、少々厄介な代物であった。

『この本に載ってるトリュフとか希望しますー♪』

…一応どんなものが良いのかと希望を聞いたところ、カナタはわざわざクーゲル(トリュフボール)を使うレシピを示したのだ…。
柔らかな中身を入れる為に必要なチョコの外枠は…バレンタインの特設コーナーに行かなければ、手に入らない…。(取り寄せる時間はもう既に残っていない…)
計算か策略か…何かを試そうとするかのような、カナタの選択だ。

(トリュフボールって…何とか手作りで出来ないかな…??;)

カイル当人はその可能性に気づいていない様子で、何とかしようと頭を悩ませている。

「―――誰かに、相談してみようかな…?」

ふとカイルは呟いた。
相談する、となればやはり兄弟に尋ねてみるのが順当だろう。
…しかし、―――どう尋ねろと?(汗)
まさか、カナタにチョコをあげる為、製菓店へ買い物に行こうと思うけれど、店に入るのが恥ずかしいからどうしたらいいか?等とは聞けまい。

「……………(汗)」

しかし。聞くしかない。

 

―――で、一番気にしなさそうな(?)人に聞いてみた。

「バレンタイン?」
「はい、それで…どうやって製菓店に入ればいいか悩んでいて…」
「私の分はあるのか?」
「あ、作ります。」

うむ。と、満足そうに頷くクラハさんを見て、カイルもほのぼのと微笑みを返す。
…もはや、バレンタインからなにやら遠ざかりつつあるが…まあ、カイル本人は気にしていないので良いとしよう。

「―――木を隠すには、森の中…」
「え?」

クラハさんの発言に、カイルは首を傾げる。

 

「つまり、他の買い物客の子達に混じってしまえば良いという事だ。」

 

「あ…ユウさ――――!?;」

別の場所から聞こえた声に、カイルが振り返った瞬間、それ!とばかりに、上から何かを被せられた。

 

 

 

体つきが隠れるようなコートと、可愛らしく結ばれた赤のチェックのマフラー…それに、毛糸の帽子を被せられたカイルは、ただそれだけのことで女性客に混じっても違和感がなくなってしまっていた…。(ついでにチョコの追加作成も依頼された。)
しかし、それでも…

―――恥ずかしい…(///)

きゃいきゃい☆と思いを告げる為、チョコを物色する女の子に混じり、自分も同じ理由でチョコを見つめている状況というのは…カイルにはとても恥ずかしかった。
その為、頬をピンクに染めたカイルは、初々しい乙女と言った風情になってしまい、男性店員からの視線を集めてしまっている…。

(何個くらいいるかな…?;)

もう早く用事を済ませてしまおうと、気を取り直したカイルはキッ!と陳列台に向かう。
贈る用と自宅用に、量が必要となった為、トリュフだけを作ると、大変な事になりそうだ。悩んだ結果、とりあえず大量のスィートチョコと、カナタに贈る分だけのトリュフボールをカゴに入れ、自宅用には型抜きチョコを作る事に決めた。

殆ど買い物時間はかからなかったとは言え、精神的な圧迫感を感じていたカイルは、レジに並んでようやくホッと息を吐く。
――――そして、視界によく見知った人影を目にした。

「あ、カイくん!」
「あっ、ほんとだ…」

「―――ヒロさん…ルレンさん…」

どうしてここに?

違和感なく店内に溶け込んでいた2人に、カイルは首を傾げる思いだ。

「あっあのねっ…帰りに急に甘いものが食べたくなって…それでっ」
「一緒にお店に寄ったんだ。でも、凄いよね!こんなにチョコがいっぱいあるなんて、びっくりしちゃった!」

「……………」

2人共、バレンタインの存在をすっかり忘れている様子だった…。(元々、マクドール家では、当日になってようやく思い出す程度の行事だったが…)

 

 

ミッションツー。(?)

「え?台所?」
「はい、夕食前までには片付けますから、使ってもいいですか…?」
「それは構わないけど…何を作るの?」
「明日、バレンタインなので…チョコを――」

その途端、笑顔のまま固まるユーリグさん。

「…? ユーリグさん?」
「…構わないよ?」

何か様子がおかしい?と首を傾げるカイルに、ニコッと微笑んでみせるユーリグさんだ。

「何か手伝おうか?」
「えっと…」

「お菓子作るの?僕も作ってみようかな、」

ふと台所を訪れたケイさんが呟き、―――台所は非常に慌しくなった。

 

 

 

――――――そこまでして迎えたバレンタイン当日…。

 

 

「あvカイルさーん♪♪」

「…………………」

 

カイルの目の前では、カナタが他の女生徒からチョコを受け取っている光景があった。
しかも、女生徒は受け取ってもらえたのが嬉しかったのか、笑顔のまま立ち去っている。

「…………………」
「……カイルさん?;」

――カイルだって人間だ。
たまには怒る事もあるし、何かの限界がぷつっとくる事もある…。
特に、とてつもなく恥ずかしい試練を乗り越えてまでチョコを作った今は………。

「カ、カイルさん…?;何か様子〜…」
「………」

 

にーっこりと、カイルは笑った。

 

―――そして、そのまま手に持っていたチョコを、パーン!と床へと投げつけた。

「ギャーーー!!;カイルさーん!!?;それ僕のチョコじゃ…!?;」

はっし!とそれに縋るカナタにも、ニコニコと笑顔を絶やさないままだ。

「もういらないと思ったんだけど…?」
「要りますーーー!!!!;絶対要りますーーーーーー!!!!!命と同じくらいカイルさんの愛の手作りチョコは必要ですーーーーーー!!!!!;―――――ハッ!!;カイルさん!何か誤解があるみたいですけど!今この手に持っているチョコは、お約束通りの展開の!別の人に渡して欲しいと預かっただけの!具体的に言うとっ一番兄ちゃんアオイさんへのチョコですーーーーーーーー!!!!!;(必死)」

「カナタくーん?何したの!?(怒)」
「誤解なんですぅーーーーーー!!!!!(泣)」

…家の前でのやり取りであった為、ユーリグさんまで乱入した、物凄い騒動になった…。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

「勘違いしてゴメンね…?;」
「カナタ君も、勘違いさせるようなややこしい真似はしないようにしてね?(にーっこりv)」
「申し訳ないですー;」

マクドール邸内で、正座までさせられたカナタは、何とか誤解を解いて、正式にチョコ(※一部破損)を授与された。

「っていうか、僕、人に渡すように頼まれる以外のチョコなんてもらえませんよー(笑)」
「そうなの?」
「そうですよー(笑)レンさんとかは色々もらってましたけどー☆ 他には、同級生の女子から、ハズミさんへって頼まれた分しか持ってませんよー」

あはははははvと、多少和やかな会話が続けられ―――――ていたのは、ここまでだった。

 

「…ハズミって、やっぱりもてるんだね…」
「…レンも………」

 

あ。

 

「カナタく〜ん?(怒)」
「え!?今のも僕のせいですかーー!!!?;」
「……………(汗)」

 

…バレンタイン…それは、とても大変なイベントだということを、今年になってようやく実感したマクドール家と2主家であった…。