『ある日の日常。その2』

「あvカイルさんー♪おはようございますー!!」
「カナタ…おはよう、」

日曜の朝、偶然にも2人は同じように家から出た所で、顔を合わせた。
カナタは、厚手のパーカーにマフラー、手袋までした格好で自転車に跨っていた。自転車のカゴには、中くらいの大きさのクーラーボックス、それに釣竿が入っているであろうバックまで持っている。

「…釣りに行くの?」
「はいです♪」

まだ肌寒いながらも良い天気で、出掛けるにも釣りに行くにも良い日和だった。

「カイルさんもどこか出かける用事ですか??」

コートを着て、小さなカバンだけを持ったカイルに、首を傾げてカナタも問い返す。

「用事って訳じゃないんだけど…図書館にでも――…」

出かけようかなと思って…と、カイルが最後まで言う事は出来なかった…。
―――何故なら、目の前ではカナタが、キラキラと瞳を輝かせていたからだ。
言葉よりも早く、その瞳が

『用事ないんですか!?一緒に出かけませんか!?出かけたいです!一緒に!一緒に!』

…と語っていたからだ。

「もし良かったら!一緒に釣りでもどうですか!?」
「えっと…(汗)」

キラキラキラ☆
…カイルに勝てる訳がなかった…。

「…じゃあ、行こう、かな…?;」
「やったーーー!!」

特に急ぐ用もなかった為、ついつい頷いてしまったカイルだ。
そして、了承する事によって喜ぶ少年の姿を見て、カイルもほっと少し微笑みを見せる。

「―――じゃあv 後ろにどうぞですv」
「え?」

当然!とばかりに、カナタは自分の座る自転車の後ろを叩いて見せた。

「いいの??;」
「大丈夫です!!」

道路交通法を軽く無視した発言に、カイルは戸惑いを見せるが、相手は全く気にしていない。
むしろ、乗らないと言えば確実に落ち込む様子を見せる程、期待に溢れた視線を送ってきている。

「それじゃあ…;」

促されるまま、カイルは後部座席に横向きに乗ると、嬉しそうな声がカナタから上がった。

「しっかりつかまっててくださいね!」
「わ;」

ぐんっと、思ったよりも速いスピードで動き出す自転車に、カイルは言われるままカナタの身体に片手を回してつかまった。
―――横乗りというバランスが取りづらい乗り方にも関わらず、危なげなく進む自転車の動きに、驚くよりも何となく感心してしまうカイルだ。
通り過ぎていく町並みと、風の冷たさに、子供の頃に戻ったような気分を感じてしまう…。

「―――そう言えば…どこまで行くの!?」
「海までですー!」

聞こえるようにと、少し大きな声で呼びかけると、カナタから驚きの答えが返ってきた。

「海!?;」
「はいー!川で釣る魚!泥臭いからせめて海の魚にしてってハズミさんから却下されました〜!今日の晩ご飯用に海魚GETです〜!!」
「!!!!(汗)」

ハングリー精神の高い2主家の食事事情に、返す言葉もないカイルだった…。

 

※ ※ ※

途中、休憩で買ったホットミルクティーを冷たく冷えた頬に当て、カイルは目前に広がる海を見る。

「―――…ほんとに来ちゃった…;」
「カイルさーん!こっちですー♪」

1時間以上もかけ、やってきた場所にカイルは感慨深い思いを抱いてしまう。
磯の匂いが満ちる中、足元のテトラポットに付着する小さな貝を踏まないように気をつけながら、呼ばれた方へと向かう。

「その辺り滑りやすいですから、気をつけてくださいね♪」
「うん、大丈夫。」

言われた生乾きの海草がついた場所を避け、カナタの横に腰を下ろす。

「最低でも7匹は釣らないとダメなんですよ!死活問題なんです!!」
「そうなの?」

じゃあ頑張らないと、と軽く言葉を返しながら、カイルも渡された竿を海へと入れる。

釣れたり、
逃がしてしまったり、
変なものを釣り上げて、
笑って、
買って来たお昼を一緒に食べて、
他愛のない会話を繰り返す…

そんなやり取りをカイルは何となく楽しいと感じていた。

(………落ち着く、かも…)

一緒に過ごす時間の心地良さを感じ、カイルは気持ち良さそうに瞳を閉じた…。

「…カイルさん?」
「――――…」

ぽすっとカイルの頭がカナタの肩に当たり、ドキッと少年は心を甘くときめかせる―――が…

「……………………………寝ちゃってます……」
「……すぅ…」

|||orz…
一瞬凹んだカナタだったが、3秒で「これはこれでおいしい!?可愛い上に気を許してくれてる証拠ですか!?」と前向きに立ち直った。

 

※ ※ ※

―――そして、訪れた夕暮れ…。
海を赤い不思議なグラデーションに染め上げる、落ちた日を見て…カナタは呟いた。

「―――カイルさん…」
「ん…ん、ん…あ、れ?」

「もう――――こんな時間になっちゃいましたーー!!;」

とっぷりと暮れた日の中、カナタはそう絶叫した。

「え!?;もう日が暮れてる!?;」
「うっかり寝顔見つめてたら!こんな時刻にーーーー!!;どうしましょうか!?;」
「携帯っ…!;とりあえずユーリグさんに連絡しないと…!;」
「ひぃーーー!!;僕、ユーリグさんに殺されちゃいますーーー!?;(T□T)」

…その日、少年は、日が暮れても戻らなかった事と、自転車の2人乗りについて、(ユーリグさんから)とくとくとお説教を受けたという…。
無論、2主家の食卓に魚が間に合わなかったという事は、言うまでもない…。