『ある日の日常その4』
マクドール邸、リビング…。
―――にゃ〜…にゃ〜…にゃ〜…♪
「はい、カイルで…カナタ?」
カイルは可愛らしい猫の着信音を聞き、自分の携帯が鳴っていることに気付き、それに出る。
そして、その電話の相手は件の少年だった。…割とマクドール家でも、騒動の元の1つと噂されている、そんな相手だ。「―――え?ビデオデッキ?」
相手の少年から、また唐突な話題を出されたらしい…。
カイルは首を傾げて、問いかけ直す。「DVDじゃなくて…?」
そして、向こうからは肯定の言葉。
DVDが主体となっている今、マクドール邸でも使われているのは(大きなテレビと一緒になった)DVDプレイヤーだ。
しかし、変に物持ちの良いマクドール邸では、まだ使えるような道具は物置にしまわれていたりする。
―――確か買い換える前のデッキが、DVD+ビデオデッキだった筈である。「…確か、あった筈だけど…」
正確には物置にあると言った方が正しいが。
「うん…;じゃあ、準備しておくね? ―――うん、それじゃあ…」
そして、携帯を切り…再び首を傾げる。
「…『スゴイ物』…?」
――――僕最近スゴイ物を手に入れたんですよー!カイルさん是非一緒に見ましょう〜!!
と、電話ごしに相手が告げて来た『スゴイ物』…一体何を持って来るのか、カイルには見当も付かなかった。
―――しかし、約束は約束。「ビデオデッキ、探さないと…」
深くは考えずに、カイルはパタパタと屋敷内にある物置へと向かった。
※ ※ ※
「―――ふぅv」
満足そうな顔で、カナタは携帯を切った。
「あvカイルさんーvこんにちわですー♪」
「はい♪あのですねーカイルさんちにビデオデッキってありますか??―――はい!そうです!」
「ホントですか〜! あのですねー!僕最近スゴイ物を手に入れたんですよー!カイルさん是非一緒に見ましょう〜!!」
「わーい♪ありがとうございますー!じゃあ30分後くらいにそっちに行かせてもらいますねー☆」
と、有無を言わせない勢いでカイルと会話を交わし、首尾よく家に遊びに行く約束を取り付け、やり遂げた漢の顔だ。
「ふっふっふー♪ハズミさんのお買い得情報で、今はユーリグさんお家にいない事は確認済みですしー☆先に入ってたら戻って来られた時にも追い出されるまではしませんよね!」
完全に希望的観測である。
「さー!服は〜…まあ、このままでいいですよね!」
トレーナーにGパンという実年齢をも若干下げるような装いだが、カナタ本人は至って気にしない。(ちなみに、気にした場合は他の兄弟の服を無断で拝借する。…無論、兄弟喧嘩に発展する原因だ。)
レッツラゴ〜!と浮かれた様子で、カナタが部屋から出かけた瞬間。
ガシッ。
「――待った、カナタ。」
「クッ…;リクさん…!」カナタの足は、床で自衛隊のごとく伏せていたリク君に掴まれた。
「フッフッフッ…;」
「はっはっはっ…;」目と目があった時、2人はどちらともなく乾いた笑いを零れさせる…。
言わずもがな、―――抜け駆け行為についての抗議である。「あっはっはっはっ…;ユーリグさんなら、お留守ですよ?」
「ふっふっふっふっ…;戻って来るよね?長くいる気みたいだから、確実に戻って来るよね?」―――とっとと行かせろ。
―――抜け駆けするな。と、バチバチ火花が散る。
そして、沈黙。「――――だって!リクさんいたらユーリグさん問答無用で僕ごと追い出しにかかるじゃないですかー!!絶対NOです!絶対NO−−!!」
「僕だって好きで追い出されてる訳じゃ…っ(涙)てか、やっぱりソレが本音かー!1人で抜け駆けしようなんて10年早ーいっっ!!ハズミに連絡とってユーリグさんに密告してもらうよッッ!!」
「ちぃーっ;卑怯者ー!!」ギャースギャース!(怒)と10分程、兄弟喧嘩を続けた後、カナタの方が先に折れた。
「〜〜〜しょーがないですね〜っ!今回だけですよ!今日手に入れたビデオは絶対喜んでもらえる自信がありますし…―――ただし。条件があります!」
「条件?」
「今日一日僕を崇め奉ってもらいましょうか?(悪笑)―――まずは、僕のことをカナタ『さん』とでも呼んでもらいましょう!」
「クッ…; か…カナタさん…――――っ僕も連れて行って下さい…ッ!;」
ガックリ…と膝を突いたリク君は、愛の前に自らの尊厳(?)を捨てた。
※ ※ ※
「こんにちわー♪お邪魔しますー☆」
「お邪魔します!これお土産のおまんじゅうです!!」そんな兄弟喧嘩があったとは露ほども悟らせず、にこやかな笑顔でマクドール邸を訪れる2名。
そして、出迎えてくれたのは、エプロンを着用したカイルと、お土産!まんじゅう!と聞いた、クラハさんとケイさんだ。「いらっしゃい、カナタ、リク君。」
「お邪魔しますーー!!というかそのエプロンどうしたんですかっ♪?(鼻血出そうですけど)」
「ビデオデッキ探すのに、汚れそうだったから…あ、ケイさん達も捜すの手伝ってくれて…」
「そうなんですか!申し訳ないですー!お詫びに一緒に見ましょうか!」
「何持って来たの??」
「フッフッフ…これです!!」カナタが取り出したものは、ズラリと並んだ大量のビデオシリーズだった。
そのパッケージの色や、タイトルは何故だか見覚えがあるような気がしてしまう。「わぁ…」
「えっ!カナタさんそれって…;」
「わ〜、懐かしいねー」
「食べながら見ても良いのか?」
そう…!
それは…!!
「あ☆ルレンさんも一緒に見ませんか〜?♪」
「っ…それって!!」ドキドキと顔を覗かせたルレンさんすらも、瞳をキラキラと輝かせてしまう代物だった…。
※ ※ ※
「―――…何してるのかなぁ…?」
「あっ!ユーリグさん!お邪魔してブハアッッ!!」駆け寄ったリク君を、ユーリグさんは裏拳で殴り飛ばした。
…その声は、自分の留守中に害虫が2匹も上がり込んでいた為、ツンドラのごとくの低温だ。
ユーリグさんが視線の先にあるものは…
『クマの子見ていたかくれんぼ♪おしりを出した子いっとうしょう♪』
…妙に懐かしさを感じさせるメロディが流れるテレビと、それを真剣に眺める家族(+害虫)だった…。
「…カナタ君、説明。」
「やー!;何かオークションで懐かしいものゲットしたんで!;ビデオでデッキなわけで!皆で見たら楽しいなあって感じで!!;」慌て過ぎで日本語になっていない。
「あの…;カナタ、本当にビデオを一緒に見に来ただけですから…その;」←(フォローが上手く出来ない)
「…見てみると、割と面白いぞ?(もぐもぐもぐ)」
「持って来てくれたおまんじゅうも、おいしいよ?」
「ゆ、ユーリグも、一緒に見よう?」「……………」
4人もの兄弟に見つめられ、ユーリグさんは一つ息を吐いて、…首を縦に振った。
「…しょうがないですね、」
ふっと表情を緩めたユーリグさんの下で、マクドール邸『日本むかし話』上映大会は開催された。
「…カナタ君の席はそこじゃないよね?」
「ああー!!;僕の指定席(カイルさんの隣)〜〜〜!!!!;」地味な争いはあるものの、平穏なリビングの片隅には…
「フ…ふふ…僕は負けませんっ…負けませんよっ…;」
割と(心の)ダメージ大なリク君が転がっていたりした。