『ある日の日常その5』



「たんぽぽ風にゆらゆら揺れない〜♪たんぽぽ雨に濡れない♪濡れなーいっ♪」

赤い傘を差して歌を歌い、いい気分で少年は道を歩いていた。
その姿は、とても年相応には見えないが、本人が楽しそうなのだから放っておいても問題はないだろう。
特に、雨のせいで道には人っ子ひとり見えないのだから。

「あなたの目玉赤いたんぽぽ生〜え〜た〜♪あなたの骨の青いたんぽぽ生え――…」

ノリノリでよくわからない歌を熱唱していた少年、カナタは何故かピタリと動きを止めた。
その視線の先には…ダンボール箱。
それだけならいいのだけれども、(不法投棄で済むから)
―――中から何かの声がするような気がする。

(僕は何も見てません…!;)

「…った、たんぽぽ食べてっ…笑って見せて…っ;」

ブルブル傘を持つ手を震わせて、なるべくダンボール箱から遠ざかって歩こうとしたものの…

にぃにぃにぃにぃ…に……

…真横を通った瞬間に、その声が止まったりした。

 

「あああああああああーーーーー!!!!;そんなつぶらな目で僕を見ないで下さいーーーーー!!!!!(滝汗)」

道端に転がった傘と絶叫が、その後の少年の運命を決めてしまった。(どうやら開けてしまったようだ。)

 

 

* * *

「何その腹ーー!!おかしいっ!おかしいよソレー!!」
「中に何隠してるのー!?;」
「なっ中に生き物などいません!!;その…生まれそうなんですよーーーー!!;」
「何が!?;」
「何かが!!(怒)」

傘を持っているのに何故か濡れて帰ってきた末っ子(腹が妙に膨らんでいる)に、阿鼻叫喚となる2主家だ。
よくよく見れば、その腹部はうごうごと動いていた事に気付いただろうが…何かが生まれると聞いては、それも不可解事項の一種としか見られない。
そんな阿鼻叫喚の玄関先をダッシュで突破し、3人部屋のドアを硬くガムテープで閉ざす。(…リク君と、ハズミ君に迷惑な話だ…。)

「ふう!;何とか切り抜けましたね!!」

全然切り抜けてはいないのだが、そう言うとカナタは、ポロポロと服の中から座布団の上のタオルへと出産した。
…無論、人の子ではない。
猫の子である。それも3匹。

「どうしましょう…コレ;」

どう扱っていいのかわからない生き物を、とりあえずタオルで水分拭うと、適当に買ってきた猫ミルクなるものを与えてみる。
温めてもいないが、食欲が優先したのか小さい生き物共は顔中をミルクだらけにして、100均の小皿に顔を突っ込んだ。
食欲があるなら大丈夫だろうと、アバウトに考えてカナタは携帯を手にした。

「フフフ…;さあ…どうやってこの危機は切り抜けたらいいもんでしょうねー;」

隠して切り抜けようとしても、3人部屋。猫のいる気配までは隠せはしない。
ついでに、この(エンゲル係数の高い)家で生き物を飼うのはムリな話だ。もしかしたら、食材の1つにされてしまうかもしれない…!(注意:ありえません。)
―――その為、カナタはメールを送った。

いわく。

 

『toカイルさん

猫いります? 

  fromカナタ』

 

そんなメールを送信されたカイルは困惑するばかりだろう。

 

 

「ナナトさーん!カイルさんちにお昼おすそ分けしてきますねーー!!」
「うん、わかったー…―――って、あれ?ハズミ今日って鍋作ってたかなぁ?」

鍋を抱えて失踪するカナタを見て、ナナト君は首を傾げた。

 

* * *

 

「―――ってな訳で、うっかり猫拾っちゃいました。」
「……………猫?;」

どーん!と進呈された鍋(300均一)に、カイルは嫌な汗をかいた。

「この中に入れて持ってきました!」
「無理矢理入れるのはダメだから!!;」

(使用上の注意をよく守って猫鍋をしましょう。)

慌ててカイルが蓋を開けると、中ではミルクやら何やらに塗れた子猫達が不安げに鳴いていた。
…しかも、よほど慌てたのか、飲みかけのミルクの小皿までタオルに包んだ子猫と一緒に突っ込んでいたものだから、大惨事だ。
明らかに生き物にしていい仕打ちではない…。

「…洗ってあげた方がいいよねっ…;」
「…ごめんなさいです…;」

顔がちょっと(かなり)怒っているカイルに、深々と頭を下げるカナタだ。
この際、洗面所代わりに鍋は使用され…本当に猫を煮ているような状況になっていた。
マクドール邸に人がいなかったのが幸いしただろう…。

 

 

よく拭いていても、濡れ鼠のようになった子猫らは、それが嫌なのか盛んに毛づくろいをしてほわほわの毛に戻そうとしている。
元気も体力も残っている所を見ると、運が良いと言うべきか、捨てられて間もなかったのだろう。

「…可愛いv」
「そうですね!」

ほんわ〜vと顔を緩ませるカイルに、カナタはその表情を見て断言する。
そして、ある事に気付いた。

「―――はっ!!」
「え?」

―――二人っきり…!

ピッシャーン!とカナタの背後に雷が落ちる。(イメージ映像)

雨、
部屋、
2人きり、(猫は?)

(こっ…これは…!神様が僕に思いを遂げろと…!?)

「カ、カナタ…?;」

急に黙り込んでしまったカナタに、何かを感じ取ったのかカイルは少し後ずさる。

「―――カイルさん!」
「え?;は、はい??;」

グッ!と少年が青春の暴走とばかりに、両手でカイルの手を握った途端―――――

ふみっ!

「ぶわっ!!;」
「あ、マオさん」

なぁん。

ピンク色の肉球がカナタの顔面を襲った。
カナタの顔を踏み台に、華麗な着地を決めた綺麗な黒い毛並みは、カイルに向かって一度しっぽを振ってみせる。

「ま、マオさん…;いらっしゃったんですね…(汗)」

ナァ。

慣性の法則に遵って床に頭をぶつけたカナタは、そのままの体勢でマクドール家の飼い猫、マオ嬢に向かって声をかけた。
しっぽをピンと立たせたマオ嬢は、凛とした美しさがあり、妙に怒れない気高さがある。
マオ嬢はどうやら、誰かが来たということに気付いたらしく、監督にやってきたらしい。
彼女は、にぃにぃと鳴く3匹の子猫らにも気がついたようで、じっとそちらを伺っている。

「えっと…マオさん、あのね…この子達、しばらくの間お家に置いてあげたいんだけど…大丈夫かな?」

カイルが許可を求めるように伺うと、マオ嬢は優雅なしぐさで子猫の1匹に近付き…ぺろりと顔を舐めてやった。
ほっとカイルの表情に安堵が浮かぶ。

「えっとカイルさん、いいんですか?」
「家で飼うのは無理だと思うけど、飼い主が見つかるまでなら大丈夫だと思うから………カナタ、なんでずっと倒れたままなの?;」
「いえ〜…ちょっと反省を含めた、敗北感と言いますか何て言いますか…」

遠い目でカナタが呟く中、先住猫に受け入れられたと思ったのか、遊んでくれるお姉さんが来たと思ったのか人見知りのない子猫らは、マオ嬢に元気に飛びついていた。
当然マオ嬢は華麗にそれをかわすと、子猫らの手が届かない場所で丸くなって一声鳴いた。

 

貰い手が見つかった後にも、通い猫として(元)子猫らが度々マクドール邸を訪れることになるのは…また先の話である。