1.

「ケイさんは何てお願い事したんです?」

 今夜は七夕。空に浮かぶ織姫と彦星に何の願いを託したのか。笹の葉に短冊を結わえている想い人を見て、内心気が気ではなかったりする。僕の問いに若干顔を赤らめて微笑んだ姿なんか見せられたらそれはもう。

「レン君のお願いも教えてくれるなら、僕のも教えたげても良いよ?」
「ぼ、僕のですか?」

 そうして期待の篭った眼差しを向けられてしまっては、観念せざるをえなかった。できればもう少し言わないでおきたかった事なのだが仕方ない。僕はケイさんに短冊を見せた。

「僕の願いは…ケイさんの1番になりたいんです」
「1番………うん、ありがとう。その日を楽しみにしてるね」
「…はい。ありがとうございます」

 お互いに少し頬を紅潮させながら笑い合い、僕もケイさんのお願い事を見せてもらった。



2.

「『お饅頭の日ができますように』。ケイさん、今年も同じお願い事なんですね」
「いいでしょう、ユーリグ。初志貫徹ってヤツ、和菓子の日があるんだからお饅頭の日だってあるべきだよね」

 ユーリグは夕飯の片付けをした後、部屋に飾られた笹飾りの短冊を見て回っていた。飾られている短冊は14人分。お隣のカナタ君が大きな笹を用意したからと持ってきてくれ、せっかくだからと今日はお隣の子達と一緒に七夕祭をしたのだ。僕ら兄弟は毎年笹飾りを飾ってはいたが、お隣の子達とも一緒だったからか今年は例年になく賑やかな笹飾りになった。

「その隣にあるのは…『ユーリグさんに勝てますように』。これって一体誰の……レン君?」
「うん、レン君ユーリグに勝って1番になりたいんだって」
「何の1番なんです?」
「僕のお饅頭ランキングの。よっぽどお饅頭が好きなんだねぇって思って、お饅頭仲間としては嬉しくなっちゃったよ」
「そう、ですか……それは、僕もますます頑張らないとですね…」

 妙に笑顔になったユーリグはさておき、僕も気になる短冊があるにはあるのだ。14人分…という事は、お隣のユイ君の短冊もあるという訳で。あの面倒くさそうに斜に構えているユイ君が短冊。イメージは全くないのだが、ユウに言われて何か書いていたのを確かに見ている。僕は気になって笹飾りに手を伸ばした。

「こら、ユーリグ。ケイ。何をしているんだ?」
「あ、ユウ兄さん」
「ユウ…」
「他の人の短冊を勝手に見ては駄目だろう。秘密にしておきたい願い事があるかもしれない。2人だって、勝手に見られて良い気分はしないだろう?」
『ごめんなさい』

 ユーリグと2人で謝ると、ユウは分かれば良いんだと頭を軽く撫でてくれた。ユイ君の願い事は気になったが、ユウの手前大人しく諦める事にした。



3.

「さて、と…」

 反省したのか、自室へと戻ったユーリグとケイを見送って、僕は笹飾りの前に立っている。それは僕の短冊を飾るためだ。僕の短冊は特別製、何せ13枚も飾らなくてはならないのだから。

「これで良し、と」

 13枚もの短冊を飾り終えて、一息つく。この短冊は去年は7枚だった。そう、弟達と従兄の分で、7枚。今年はそれにお隣さんが増えて、13枚。本当は14枚飾る予定だったのだが、ユイにこう言われたのだ。

「ユウ。お前ってさ、もっとこう…他に願うもんねぇの?兄弟の幸せだけ願ってさ、それじゃあユウの幸せは誰が願うんだよ」
「僕は…皆が幸せならそれが幸せだからな。考えた事もなかった」
「……良し、分かった。ならユウの分は俺が願うから。だからお前の願いからは俺は抜いとけ」
「どうしてだ、それならユイの分こそ誰が…」
「ユウが幸せって事は、隣に俺がいるって事だろ?そうなら俺が幸せじゃないはずねぇだろうが」

 だから今年の短冊は13枚。用意していたもう1枚は、僕の机の中に大切にしまいこんである。来年に今日からの1年を振り返って、13枚で本当に良かったのかをユイに聞いてみよう。



4.

「何かちょっと…」
「どうかしました?」
「何だよ」
「いや、何でもない。気にしないで」

 偶然ユウとユイの会話を聞いていたナナトは、ユイとレンの顔を見て、この兄にしてこの弟なんだなぁと内心思わないでもなかった。

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