ある晴れた日曜日の午前中…とくれば、若者の行動としては友達と遊びに出かけていたり、平日では怒られてしまうお布団との逢瀬を心置きなく堪能していたりというのが大半だろう。だが何事にも例外というものは付きもなのである。

「玉子はお1人様2パックまで、っと。あとはとりあえず米だよ、男7人じゃすぐ無くなる…」

 休日の午前中に、いわゆる特売のためにスーパーに押しかけている主婦達にまぎれて、その例外にあたるレンはカートを押しながらため息をついていた。

「ユイの阿呆ー、特売当番サボるし…4パック買えた玉子が2パックしか買えないじゃないかー。当番アオイ兄と一緒なら良かったのに」

 この少年、怒る観点がちょっとズレている。1つ上の兄に対する文句を口にしながらも、他に入用なものはテキパキとカートに積んでいく。その様は下手な主婦よりも年季が入っているように見受けられた。
 最後にお米2袋をカートに積んだところで本日の買出しという名の戦闘も終了。あとはレジに並ぶだけなのだが、あいにくとレンと同じような内容どころかそれ以上のカートの持ち主でどこもいっぱいになっていた。

「まあ時間はあるし、それなら」

 レンの今日の買出しは昼食のためのものではなく、あくまでも特売品狙い。そのため帰りが遅くなったとしても家の昼食には影響しないのだからと、もう1人の台所担当である弟の姿を脳裏に思い浮かべ、レンはレジの列に背を向けた。向かう行き先はお菓子売り場だ。

「何か新商品出てるかな〜」

 そう期待をして冷蔵の洋菓子が並んでいる棚を一舐めしてはみたものの、特にめぼしいものは見つからなかった。まだレジの行列も緩和されそうにないし、それならとレンは普段ならあまり訪れない和菓子売り場にまで足を延ばす事にした。

「……何だろう?」

 和菓子売り場に近付くにつれ、商品棚の前に小柄な背中がうずくまっているのが見えた。あんなところに座り込んで何をしているのだろう。レンは興味も引かれた事だしと、暇潰しも兼ねて様子を伺ってみる事にした。
 非常に真剣な顔をしてその人物が見つめる先には…

「お饅頭?」

 思わず声に出してしまい慌てて口を押さえると、その小柄な人物は驚いた事にレンへと言葉を返してきた。

「つぶあんとこしあん。どっちが良いと思う?」

 うーんとうなって小さなお饅頭2つの前で揺れ動く後頭部。後ろから見ていると右に揺れたり左に揺れたりと常にせわしない。その様と悩んでいる内容が可笑しくて、ついこの妙な問答を続ける気になってしまった。

「よっぽど少食だという訳でなければ、どちらも買えば良いのでは?2つとも小さいですし」

「……おぉ。うん、それはちょっと盲点だったな。ありがとう」

 レンの助言通りにこしあん饅頭とつぶあん饅頭の2つを手に取り、小柄な人物は立ち上がって礼を言った。レンへと振り向いて笑うその人物には、やはり見覚えはなかった。こんなに嬉しそうに綺麗に微笑む人なら、忘れようがないからだ。

「レジ。空いてきたみたいだよ?」

 レンのカートの大荷物を見て、綺麗な人はレンの後ろにあるレジの列を指して言った。せっかく知り合えたのだからもう少し話をしていたかったが、時計を確認すると時刻は正午10分前。特売は午前中で終了してしまうために、午前中にレジを通らなければならないのだ。

「わ、ありがとうございます。それじゃあ僕はこれで」

「あ、ねえ。僕の名前はケイって言うんだ。君は?」

 後ろ髪を引かれつつ、礼を言って立ち去ろうとすると、ふいに声を掛けられて立ち止まる。

「はい?あ、レンです」

「ふーん。じゃあレン君、またね」

 それだけ言ってケイと名乗った人物は軽く手を振って和菓子売り場を立ち去った。笑顔に見とれてしばしぼーっとその背を見送っていたが、正午まであと5分というところで我に返りレンはレジへと急ぐ。ケイ…顔に合って綺麗な名前だと思う。
 それにしてもまたねとはどういう事だろうか、レンとケイとは今日が初対面で、お互いの事は名前しか知らないはずである。またこのスーパーに来たら同じようにお饅頭を前にして左右に揺れる姿を見られるという事だろうか。素性も何も知らない相手、名前しか知らない相手だが、またねという言葉が現実のものとなってくれると良いなぁ。お米2袋を乗せた自転車の重いペダルを漕ぎながら、晴れた空を見上げてレンはそう思った。


 その願いが現実のものとなるのは、新聞配達のバイトでお隣に新聞を届ける翌朝の話である。

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