今日の分の朝刊の新聞配達も終えて、あとは帰路につくだけという早朝の2人だけの時間。小休止とのんびり歩いているケイさんの隣を、僕は自転車を押しながら並んで歩いていた。

「お饅頭が7つ並んでいました。このお饅頭は1人ずつ、順番にしか手に入れることはできません。…ってなった時、レン君のとこなら兄弟どんな順番で手に入れるかな?ちなみに必ず1人1個ね、沢山取ってっちゃいけない事とする」

 ふと何かを思いついたのか、ケイさんがにこにこしながらそんな事を僕に訊ねてきた。ケイさんの話題に脈絡がないのはいつもの事だ。短い時間だが毎日のように喋っていて話題が尽きないのはこんなところにも理由がある。僕にとっては話題がなくても一緒に過ごせるというだけで幸せな時間と化すのだが。

「お饅頭、ですか?」
「あぁ、そこは何でもいいよ。お饅頭でも、お団子でも、大福でも。美味しそうなものでイメージしてくれれば」
「それでお饅頭なんですね。うーん、うちの兄弟でですか、ちょっと考えますね…」

 何せ育ち盛りの男が7人も揃っている我が家では、そんな美味しそうなものがあろうものなら即奪い合いになり兼ねない。でも問題は1人1個と決まっているのだから、自分の分がなくなるという心配はないのか…。すると誰が一番遠慮なく図々しいかと問われている気もする。

「とりあえず1番はユイですかね、誰から順番に手に入れるかを話し合う前に気にせず我先にと手を出してそうです」
「ユイ君か……。まあいいや、続けて続けて」

 僕の答えに何故か舌打ちをしながら先を促してくるケイさん。これって何かの心理テストだったりするんだろうか?

「その次はハズミかなって思うんですよ。ユイを除いて話し合った結果、年長者のアオイ兄が先にって流れになると思うんですよね。でもアオイ兄の事だから、いつも頑張ってるからハズミが先に食べたらいいとか言っちゃって、それでアオイ兄に押し切られて照れながら、2番手はハズミ」
「そっかー……次はアオイ君だったりする?」
「え、どうして分かったんですか?五つ子のうちハズミが先に抜けて、せっかくアオイ兄を先にって話になったんだから埒が明かないって。先に取って欲しいと今度は僕らがアオイ兄を押し切る感じで、3番手がアオイ兄なんです。あとは…残ったお饅頭をいっせいのーせで、残った4人で一斉に手を出して……瞬発力の差で4番手がリク、5番手が僕かなぁ。で、こういうのは残り物に福があるんですよーと主張して最後を狙ってたカナタが6番手。でも奪い合いに乗り遅れてたナナトが実際は最後の7番手になる、ってとこです」

 僕の答えにくすくすと笑っているケイさん。そういえばアオイ兄の順番を当てられたりしたけれど、もしかして全員の順番が予想通りだったりしたんだろうか。

「ケイさん、これって何の順番なんですか?種明かしして欲しいですー」
「あぁ、そうだね。でもその前に、うちの兄弟の順番も聞いて欲しいかな」
「マクドール家の、です?それは…ちょっと聞いてみたいかもですね」
「えへへ、1番はクラハね。理由は……聞かなくても分かるでしょ?」
「ですね。そこは何となく想像が付いてました」

 ケイさんは僕の言葉に笑って先を続ける。

「2番はユウ。これはレン君のとこのアオイ君に対するのと同じ理由で。で、年の順だから次はルレンが〜って言いたいところなんだけど…ね、お饅頭だからね、うん」
「3番目はケイさんな訳ですね、皆さんがすすんで譲ってくれるのが分かります」

 ケイさんは少しバツの悪そうな顔をして、しきりにお饅頭だからさと呟いてる。結果はどうやら推測通りらしい。そんな姿に思わず笑ってしまうと、わずかに頬を染めたケイさんはこほんっと一つ咳払いをした。明らかに誤魔化そうとして誤魔化しきれていないところが可愛くてまた笑ってしまいそうになったけれど、二度目は飲み込んでおくことにする。

「ユウには譲ったんだけどさ、お饅頭だからね…。気を取り直して!次は改めて年の順ってことで、4番がルレン、5番がユーリグ。そのままだったらカイル、ヒロの順なんだけど、カイルってにっこり笑って自分は最後でいいからって、ヒロに譲りそうな気がしてさ。6番がヒロ、7番がカイルかなって思ってる」
「……うちと譲り方が半端なく違うのがいっそ清々しいくらいですね」
「レン君のところはそれはそれで楽しそうで良いと思うよ?まあ、これがうちでの順番かな。さて、これで何が分かるでしょう?」

 指を振りシンキングタイムスタートと言ってケイさんは走り出した。その後を自転車で追い掛けながら僕は回答を考えてみた。種明かしの代わりにケイさんのご兄弟での順番を提示されたということは、我が家の順番と併せて答えが分かるという事なのだろう。確か…ケイさんは3番目で、僕は5番目だったはずだ。そういえばさっき嫌そうな顔をしていたユイは1番目だっけ、ケイさんが大好きなお饅頭でも譲るユウさんが2番目で。

「………。あ」
「ん、答え分かった?」
「多分…当ってると思います。これってうちとマクドール家の兄弟の順番ですよね」
「正解ー。いやぁ、レン君に聞いた時は吃驚したよ。うちだとこうかなって思ってた順番がお隣さんと一番仲が良い兄弟の序列とちょうど一緒だったから、試しに聞いてみただけだったのに。逆もピッタリだったんだもんね」
「……ユーリグさんと一番仲が良いのはうちではリクになるんですか?」
「そうじゃないの?だってリク君ってユーリグと話してる時が一番楽しそうだし。たまに2人でいなくなる時あるでしょう?」
「(それはユーリグさんがリクに陰で鉄拳制裁を加えてるからなんですとは言えない…!)」
「だから個人的にはユイ君の順番聞いた時、僕がユウにお饅頭譲らなければ逆は成り立たなかったのに、とか思ったりしたよ……」

 少し乾いた笑いを浮かべるケイさんの姿に、ふと歓迎会の時にロウウさんに抱きついたルレンさんを見て言ったケイさんの台詞が脳裏に浮かんだ。……いやいやいや、きっと兄としてユウさんが好きなだけだろう。ハズミのアオイ兄に対するブラコンっぷりと似たようなものだと思う、多分…。
 ふと思い浮かんだ言葉を振り払って、僕は僕の想いだけを伝える事にした。

「でも僕は、ケイさんが3番目で、三男の僕と一番仲が良いのはピッタリだって思ってくれたのは嬉しいですよ」
「僕も…レン君が5番目を選んで、五男の僕とちょうどピッタリだったのは嬉しかったかな」
「気が合いますね」
「何せお饅頭好き仲間だからね」

 そう言って微笑むケイさんを見て、今はまだ友達なだけだという事を再確認させられた。ケイさんは一番仲が良い組み合わせになっていると思っているようだが、僕の見立ててではちょっと違う。選んだ番号と兄弟の序列がちょうどペアになっている事は合っているが、その裏に見えない矢印が隠れている事にケイさんは気付いているだろうか。

 ケイさんと併走しながら、僕が進みたい未来へと進める日が来ると良いなぁと願いつつ。とりあえず今度またお饅頭の差し入れをしようと心に誓ってみたりした早朝の一時だった。

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