「そう。止めたいところでボタンを離して。次、こっちのボタン押すと奥に進むから、離したらアームが降りてきて。そうそう…あ、あ〜…」
「取れませんでしたね…」
「惜しかったんだけどなぁ」

 空を切るアームの姿にレンとハズミは揃って溜息をついた。



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「さっき外で1ゲーム無料券貰ったからさ、これレンの分ね」

 ハズミが学校帰りにゲームセンターの前を通りかかったところ、今キャンペーンをやっているということでクレーンゲームのチケットを配っていたらしい。3枚貰ったからと、1枚はナナトへ、もう1枚はレンへと渡された。

「これ、良かったんですか?こういうのリクやカナタの方が好きなんじゃ」
「あぁ、いいっていいって。これ貰った時あの2人も一緒だったから、ホントはトータル9枚あるんだよ。2人とも1人で3枚全部使う気らしいからさ、僕そんなに使わないし」
「そういう事なら、ありがたく貰っておきます。…クレーンゲームなんてやるの何年ぶりでしょうね、昔から取れる保証もないものに高いお金出して挑戦する意義が分からなくって」
「レン、それ夢がなさ過ぎるよ…」



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 そんな経緯があって五つ子揃ってゲームセンターまで足を運んだのであった。

 クレーンゲーム1ゲーム無料券とは、1ゲーム分の料金で2ゲーム遊べるというチケットだ。決して1ゲームだけ好きに遊ばせてくれるチケットではない、1ゲーム分は身銭を切らなければいけないのだ。レンが操作している台は1プレイ200円、2プレイ300円である。
 今日2回目の空を切るアームの姿にレンは小さく溜息をついた。残念だったねと肩を叩いて他の台を見に行くハズミを見送ってから、200円あったらお饅頭1つは買えるなぁと思いながら先ほどまで顔を突き合わせていた台に目線を戻す。すると、小さいぬいぐるみがひしめいてるガラスケースの中、たまたま1匹の動物のぬいぐるみと目があった。

「……もう1回だけ」

 普段無駄遣いはしないよう心がけているレンだが、財布から300円を取り出しコイン投入口に硬貨を押し込んだ。レンのボタン操作に従って、再びアームが動き出す。
 1回目…ぬいぐるみ群をかする、狙っていたものの隣にある小さなぬいぐるみを揺らすのみだった。
 2回目…狙っていたぬいぐるみの両脇に刺さったが、持ち上がったアームの先は空に終わった。
 念のため2ゲーム分の料金を投入してみたが駄目だったかとレンは下を向いた。

 ボトッ

 鈍い音に顔を上げると、1回目の時に揺れていた小さなぬいぐるみが転がって景品の取り出し口へと落ちていくところだった。

「……取れた。取れました。小さいですけど、でも」

 景品の取り出し口から戦利品を拾い上げるレン。それは掌に収まるほどの大きさの小さなぬいぐるみであったが、自分の力で手に入れられた嬉しさで自然と口元に笑みが浮かんだ。

「ハズミ、僕も取れ…」

 戦利品を得られた嬉しさを分かち合いたくて、レンがさっきまでいたハズミの背を追って後ろを振り向くと…


「ふはははは、入れ食いですよ、楽勝です!あ、この台もすぐ取れそうですね、やってみますか」
「カナター、こっちもいけそうだよ。…これユーリグさんにプレゼントしたら喜んでくれるかなぁ」
「わ、リクさんそんな大きいぬいぐるみを一体どこで」
「あ、これはここの戦利品。ちょっとかかっちゃったけどね」
「リクさんもなかなかやりますね…。ところでこの猫さん達はカイルさんにプレゼントするとして、このミニサイズの動物シリーズをセットでルレンさんにプレゼントしたら喜んでくれますかねぇ、ハズミさん?」
「そこで何で僕に聞くのさ」
「あ、こっちもいけそう……ハズミ、ハズミ!これユーリグさんに似てない!?」
「二人とも、そんなにぬいぐるみばっか集めたってしょうがなくない?どうせやるならあっちのお菓子にしなよ。ダッツもあるよ、僕これ食べたいー」
「どれどれ…お、これならいけるかもですよ。ちょっとチャレンジしてみますか!」
「カナタ凄い、一発で上がった…!あぁ、でも途中で落ちちゃったか…」
「くそう、もう一回ですよー!?」

 隔離部屋三人衆による(主に二人が原因だが)別世界が築き上げられていた。


「………………」

 1つボタンを操作するたびに次々と築かれていく山のような戦利品は、どれを取ってもレンが手に入れたぬいぐるみより大きく、中には店員にお持ち帰り用の袋まで貰うほどの特大ぬいぐるみまでが含まれていた。レンは改めて手の中のぬいぐるみを見下ろして、そのまま後ろ手に隠した。

「レン、そんなとこでどうしたの?あ、レンも取れたんだね、ねぇみ、むぐっ!?」
「ちょーっとナナト、こっちに来てください…」
「む、むぐぅ、むむ?」

 手の中のぬいぐるみをナナトに見とめられ、他兄弟に声を掛けようとしたナナトの口を思わず塞ぐレン。そのままゲーセンの隅へとナナトを引きずり、他兄弟と離れたところで解放してからレンは小声で囁いた。

「ナナト、僕がこれを取った事は内密にお願いします」
「え、何で。そのぬいぐるみ、レンが取ったんでしょ。小さくて可愛いじゃない」
「何ででもです。お願いします」
「まあ、良いけど…。隠すような事じゃないと思うんだけどな」

 有無を言わさない様子のレンの勢いに押されて、ナナトは首を傾げつつも頷いた。ナナトの疑問に答えるかのように、レンは目を逸らして苦々しげに口を開く。

「……あんな入れ食い状態見せられたら、何か嬉しさが半減したというか、小さいのに喜んでたのが恥ずかしくなってきたというか。あと何で僕クレーンゲームが久しぶりだったのかをちょっと思い出しましてね…」
「え、理由なんてあったの?」
「あれです、小学生の時に…家族皆で遊園地に行ったでしょう」
「あぁ、そういえば…確かそこのゲームセンターでリクとカナタが今日みたいに獲りまくったんだよね、1人お小遣い500円で。…で、レンだけ取れなかったんだっけ」
「そうですよ、射的で乱獲してるのも約1名いましたけどね…。その結果皆ぬいぐるみ持ってるのに僕だけ自分で取ってもいない射的の景品のマッチ箱を持ってたっていう…」
「それからだったんだね…言われてみるとゲーセン行ってもいつもレン見てるだけだった気がする」
「そうですよ、ある意味トラウマだったんですから…ナナト、どうかしました?」

 急に笑顔になって見つめてくるナナトに、レンは訝しげに訊ねた。

「だって、要するにレンそれ取れて嬉しかったって事だよね」
「………」
「ね?」
「…いいじゃないですか、どちらでも」
「ちなみに僕もこれ取ったんだー。レンのと同じくらいの大きさだよね」
「…そうですね、可愛いと思います」

 一拍の間の後、レンとナナトは顔を見合わせて笑った。

「いいですよ、参りました。別に隠す事じゃありませんしね、せっかくの戦利品ですからお披露目しましょうか」
「うん、一緒に見せよう。200円かかったけど取れたもんね」
「200円…?」
「うん、無料券があったから2ゲームで200円、だよね」

 ナナトは2ゲームでちゃんと取れたようで必要経費は当初の200円で済んだようだ。一方、レンはトータル4ゲーム遊んでいるので必要経費は500円という事になる。

「……やっぱり内緒にしておきます」
「今度は何で!?」



 ナナトが何とかレンをなだめて戻ると、つい熱が入りすぎて財布を軽くしてしまい落ち込んでいる2人とそれをなだめている約1名の姿を発見し、この5人でクレーンゲームを遊ぶのは止めようとナナトの心に固く誓われたのだった。

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