今日の部活も終わり、駅に降り立った頃にはもう既に日が暮れていた。僕の兄弟のことだ、今頃は皆揃って居間で談笑していたりするのだろう、夕飯には手も付けずに。…あんまり遅くなると悪いなと主に三番目の兄の顔を思い浮かべながら、僕は家路を急いだ。
 すると、しばらくして前方に見覚えのあるような後姿が目に入ってきた。思わず少し早足になってその後姿に近寄ったが、段々とその輪郭がはっきりしてくるにつれて予想が外れていた事に気付く。そうだ、もう夕飯時なんだから今頃彼だったら台所で大忙しなはずだ。予想とは違っていたが、それでも前方を歩く影は見覚えのある輪郭である事には変わりないので、僕はその後姿に声を掛けた。

「リク君、こんばんは。部活帰り?」
「ケイさん?こんばんは。そうなんです、ちょっと部活で遅くなっちゃいまして…」
「……ごめんね。僕もリク君に同じくだから、今日はユーリグは一緒じゃないんだ」

 少し悪戯っぽく告げると、リク君は少し赤くなって苦笑いを見せた。声を掛けたら途端に僕の周囲を窺ってそわそわしだすんだもん、リク君は本当に分かりやすい。レン君曰く『素直で可愛いが不憫』ってとこは本当にその通りに見える。…最後の不憫って批評がちょっと気になるけど。

「ユーリグじゃなくて悪いけど、良かったら一緒に帰らない?もう遅い時間だし家まで送るよ」
「そんな、悪いなんて事ありません!喜んで。……この場合って僕が送るって言わないですかね」
「何でー、僕のが年上なんだからね。お兄さんに送られるのは可愛い男の子の方でしょう?」
「可愛いって点だったらやっぱり…」
「もう、置いてくよー?」
「わ、待ってください!」

 そんな経緯で、僕はリク君と2人で家路につく事になった。



「でさ、レン君とはお互いに新しいお店見つけたら教えるねって言ってるんだ」
「じゃあお饅頭の話を良くしてるんですね」
「うん、だってレン君とはお饅頭好き仲間だからね」
「(レンってそんなにお饅頭好きだったかな…)それじゃあ駅向こうにお饅頭の売ってるコンビニあるのって知ってます?お努め品でよくレジ横に置いてあるの見かけるから」
「え、そうなの?そんなとこにコンビニってあったんだ。コンビニって系列店が違ったら品揃えも違うからね、コンビニスイーツも侮れないし。ありがとう、今度チェックしてみるよ」

 両兄弟が揃って集まる時は大抵一緒にいるのはレン君だったから、思えばリク君とこうして2人きりでお話するのは初めてなのかもしれない。こうして話してみると凄く良い子だなぁと思えて好印象。…決してお饅頭情報をくれたからってだけじゃないからね?

「あとは…話題っていうとやっぱりお互いの兄弟の事とかかなぁ」
「ユ、ユーリグさんの事も話してたりするんですか?」

 隠そうともしていない上に一直線。兄弟って言葉に対して反射レベルで見せた反応速度に、良い子な上に分かりやすいところが可愛いと感じた。

「そうだね、してるねぇ。どんな話をしたのかっていうのは内緒だけど」
「え、どうしてですか?」
「だって…好きな人の事は、その人と話して自分で発見していかなくちゃ。知る楽しみを取っちゃ駄目でしょう?」
「好きな人って…」
「違ってたらごめんだけど、好きなんでしょう?ユーリグのこと」

 そう言ってリク君の目を見つめる。目を逸らさずにリク君は僕の言葉に頷いた。…うん、本当に良い子だ。

「やっぱり。見てたら分かるよー、僕だって好きな人いるもん」
「えっと、それって……もしかしてレン、だったり…?」
「レン君も好きだけどね。それとはちょっと違うかな」

 うん、レン君じゃない。僕が脳裏に思い浮かべたのは…。

「ユーリグと、仲良くしてあげてね。何てったって、僕の好きな人なんだから」
「………え゛?」
「勿論ルレンだってクラハだって、カイルだってヒロだって好きな人なんだけどね」
「あ、そう!そうですよね、良かったー…」
「ユーリグと仲良くするついでに、僕とも友達として仲良くしてくれると嬉しいのですよ」
「それは勿論。ユーリグさんのご兄弟とは皆さん仲良くしたいですから」
「うん、宜しくね」

 そうこうしているうちに家に辿り着き、リク君とは玄関先で別れた。リク君が家に入っていくと、お隣の賑やかな様子が開かれた玄関から漏れ聞こえてくる。心地よい騒音に耳を傾けながら、僕は自宅の玄関のドアを開けた。お隣ほどの賑やかさはないけれど、それに負けないくらい温かな家。玄関を抜け居間を覗けば、僕の好きな人達が揃って僕を迎えてくれるんだ。

「ケイ、おかえり」
「おかえり、待ちくたびれたぞ」
「クラハ兄さんったら…ケイさん、皆待ってますから早くうがいと手洗いしてきてくださいね」
「慌てなくてもケイさんの分はちゃんとありますから」
「でもあんまりのんびりしてるとちょっとだけ量は減ってるかもしれないよ」


 うがいと手洗いを済ませ、兄弟の待つテーブルに着く。
 僕が席に着いたのを確認して、号令を掛けるのがユウ。――僕の大好きな人。

「?…ケイ、何か僕の顔についているか?」
「ううん、何もついてないよ。…僕もクラハほどじゃないけどお腹空いたー」
「そうだったな、それじゃあ…いただきます」
『いただきます』

 ご飯は一人で食べるよりも二人で、二人よりも大勢で食べた方が美味しい。その相手が好きな人だったら尚更…大好きな人だったら更にもっと。僕の持論は未だ破られた事はない。

BACK