♪仕事だ!仕事だよ!仕事っ!仕事だ〜!仕事です!仕事ですよ〜!!

空は快晴、昼下がり。そよ風が気持ちのいい屋上で弟特製の弁当を平らげた後、ひと眠りしようかというところでアオイの携帯が鳴きだした。ちなみに着信音は弟達のボイスだったりする。持つべき物はやっぱり家族。これなら仕事を頑張れるかな?と、各々に入れてもらったのだ。

ポケットの中でチカチカと光る携帯を開くと、メールが一件。

本日、○×スタジオにて撮影、17:30には現場入りしてね!今日は皇子だからよろしく☆頑張っていきましょう!!

(皇子・・・・?なんだかよくわからないが・・・まあいいか。)

なんともフレンドリーなメールは事務所の社長から。今日の撮影の連絡である。街中で熱心にスカウトされたをきっかけに、〈他のバイトもあるので単発の撮影のみ〉と言う約束で始めたモデルの仕事だが、なんだか最近少し前より仕事も増えてきた気がする。流石にこういう仕事は慣れないのだが、どうも頼まれると弱く、断れないのだ。(まぁ、給料がいいというのもあるし)それに、気さくで明るい中にも真面目で人情味のある社長の人柄は割と気に入っている。社長と社員が数人の小さい事務所だが、そんな社長の性格もあってか所属するモデル仲間からも信頼が厚い。

〈了解〉と返信するとまたコロンと寝転がる。空は眩しくて顔に手を翳すと、落ちる影にゆっくりと意識を奪われてゆく。

キーンコーンカーンコーン

「あ」

響いた予鈴。あっと言う間の昼休みに小さく息を落とすとアオイは教室へ向かった。



―――――――――――



「あ、セイちゃん!おはよーございま〜す!今日も頑張っていきましょう!!」

「・・・オハヨウゴザイマス。よろしくおねがいします」

スタジオに入ると社長が満面の笑みで出迎えてくれた。ちなみに〈セイ〉とはアオイのモデル名である。アオイは社長に返事をすると<相変わらずテンションが高いな・・・>などと思いながらメイク室に向かう。扉を開け、中にも入るとそこには白と黒を基調とした衣装がズラリと並んでいた。ラインの整った美しいシルエット、優雅に飾られたフリルはデザイナーや職人達の仕事ぶりを感じさせる。

思わず近寄ってまじまじと眺めると奥からスタッフがでてきた。

「あ、おはようございます!私が今日のメイク担当です。よろしくお願い致します」

「あ、おはようございます。よろしくお願いします」

ハッとして挨拶を返すと目があったスタッフがニコリと微笑んだ。

「本物のゴスの衣装を見るのは初めてですか?・・・やっぱり素敵ですよね。あ、今日の撮影のテーマは皇子と姫ですのでよろしくお願いしますよ♪皇子!」

(なるほど・・・・だから皇子だったのか・・・)

やっと意味がわかったが、実際、自分は皇子なんて柄ではないし、そもそも皇子って何だ?普段考えたこともないイメージに戸惑い、思わず聞き返してしまった。

「・・・皇子ってどんな感じですか?」

「・・・貴方ならそのままでいいと思いますよv」

その答えにますます困惑し、アオイは眉間にシワをよせた。

「あ、眉間にシワはだめですよ!皇子は白い歯をさりげなく見せて微笑まなくっちゃ!」

「そうですか・・・」

いきなりのツッコミに面食らったが、気を取り直し、取りあえず〈さりげなく微笑む〉を念頭に置いて、今日の仕事に臨もうと思ったアオイであった。



―――――――――――



ぱんっ!

「はい、みなさん今日はよろしくお願いしま〜す!!」

メイクを終えたモデル達が揃うと、〈注目〉と言ったように社長が手を叩き、そこに皆の視線が集まる。社長の隣にいるのはおそらく、目の前にいる女性モデル達の関係者だろう、ラインの美しいスーツに華奢な眼鏡をかけた女性が口を開いた。

「今回は機会に恵まれ、今日、明日と二日間の撮影の運びとなりました。コンセプトは皇子と姫です!みなさんには期待していますよ」

取りあえず初対面と言うこともあり、それぞれに挨拶を交わす。純白、漆黒、紅、優雅な衣装に身を包まれた女性たちは、まさに姫という言葉がふさわしい。

その中でも一際目立ったのが、紅のワンピースを纏った一人の女性だった。

「ハルカです・・・よろしくお願いします」
「あ、セイです。よろしくお願いします」

そう言葉を交わしただけだが、艶のかかる黒髪、ワンピースと同じ、深い紅の瞳や、他の女性とはどこか違く、圧倒させるような雰囲気すら漂わせていた。



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「はい、みんなとっても良かったよ〜!今日はお疲れ様!明日は19時からですので、よろしくお願いしますね!!」

本日の撮影が終わってスタジオを出る。ふと今日会った〈ハルカ〉のことを思い出した。なんというかインパクトが強いというか、前にも見たことのあるような、そんな気さえ起こってくる。それとも本当に見たことがあるとか?終いにはなんだか良く判らなくなったまま帰路に向かうアオイだった。

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