「あーあ・・・・」

外は雨降り。空から落ちてくる雨粒を見つめながらヒロは溜め息をついた。

天気予報は一日晴れ。確かに学校を出た時は晴れていたのに、ちょっと寄り道をした途端これである。

「困ったな・・・・」

いつもなら家まで走って帰るのだが、今日ばかりはそうはいかない。左腕には大きめのスケッチブック。美大の兄にアドバイスをもらおうと課題の絵を持ち帰ったものの、この雨に濡れては困る。

(取り合えずもう少し様子をみるかな・・・)

店の軒下で思わぬ足止めをくらってしまい、仕方なくそのまま立っていると小走りで行き交う人々が目に映る。おそらく自分と同じよに雨が降ることなど考えていなかったのだろう。


そこにふと目に入る紺色の傘。

<用意がいいな>と思いながら傘が通るのを目で追うと、それは自分の前でピタリと止まった。

「あれ、お隣りさん、ですよね?」

傘の裾から覗いたのはどこかで見覚えのある顔だ。栗毛色の髪の毛とぱっちりした目。いかにも純朴そうな少年である。

「えっと・・・・」

確かに隣人の一人であると認識はしたが、パッと名前が浮かばない。そもそも隣人は7人兄弟。まだ顔と名前が一致しないのが現状だ。

ヒロが返事に詰まるとそんなことは気にしていないかのように隣人は目線を外す。

「それ、濡れたら大変ですよね。よかったらコレ使って下さい」

どうやらスケッチブックに気付いたらしく、彼は手に持っていた傘をズイと差し出すとヒロの手に握らせる。

「あっ、あの・・・・」

「返すのはいつでも良いですから!」

呼び止めようにも、すでに彼は走り出していた。

受け取った傘は確かに二人で入るには心許無い大きさだ。肩に雨があたるぐらいならなんとか入れるかもしれないがそれではスケッチブックが濡れてしまう。おそらくこちらを気遣っての行動だろう。

ヒロは彼の背中に感謝し、傘を握り直す。年期のはいった紺色の折り畳み傘。取っ手にはカタカナが3文字彫ってある。彼の名前だ。


〈ナナト〉


(ナナト君か・・・・)

ヒロは小さく笑うと紺色の傘と家路に向かった。

BACK