「電話、なんですー?」
 カナタが作業の手を止めぬまま尋ねる。
「ハズミが、飲み物を買ってこいと言っている」
 携帯電話を閉じたアオイが至極簡潔に答えた。
「えー!!そんなん自分で行けってんですあのムッツリスケベ!」
「まーまー、ハズミは向こうで支度手伝ってるんだから……じゃあ僕行くよ」
 ふくれる末弟をなだめたナナトが、はいと立ち上がる。
「お前達はどうする?」
「僕も行くー。力仕事担当だし」
 リクが、ナナトに続いて立ち上がり、支度を始める。
「僕はパスです〜まだ仕込みが終わってません〜」
「仕込み?」
「ふっふっふ、お楽しみは多いに越した事ありませんから!」
 首を傾げる兄達に、カナタは不敵な笑みを浮かべた。


「……とは言ったものの、どーしましょーねー……あれ」
 兄達が出ていった後。
 一人――正確には、次男がまだ自室で寝ているので二人なのだが――家に残ったカナタは、向かいあっていたノートから顔をあげる。
 ふと、隣家の庭先が目についた。
……先日、挨拶しにやって来た眼鏡の少年が、濡縁にちょこんと座ってぼんやりしているのが見えた。

「こんにちはです〜!」
 早速庭に出たカナタは、境界線にある低い柵を乗り越え、堂々の不法侵入をはたす。……所有者の目の前ではあるが。
「……!……あ……あの……こ……こんにちは……」
 カナタが、ルックスをフルに活かしたスマイル攻撃をかけると、相手は恥ずかしそうにうつ向きながらも、会釈を返してくれた。
「小動物みたいで可愛いですね〜☆僕はカナタです、あっちの家の末っ子です〜☆」
「…………ルレン、です……」
「なんだかウチの三男に似たお名前ですね〜。ルレンさんの方が可愛いですけど!」
「え?………ゃっ、あの……えぇっと……」
「真っ赤になっちゃって可愛いですー!カイルさんにはちょびっとだけ負けますけど!」
「……カイルの……お友達、なの?」
 カナタの発した「カイル」という単語に、初めてルレンが顔を上げた。
「違いますよ〜!僕はカイルさんの恋人です〜!」
「……こい?」
「そうです!お隣に越してきたその日に一目惚れしたんです〜!」
「……そう、なんだ……すごいねぇ」
「でも僕もまだまだなんです。ウチの二番兄ちゃんユイさんなんか、この前ユウさんに「付き合ってほしい」って言われたんですよ!!」
「……付き合ってって?」
「そうです!」
「……そうなんだ」
「?なんかリアクション薄いですね?驚かないんですか?」
 先刻から相槌を打つだけのルレンに、カナタが首を傾げる。
「ううん、ちょっとびっくりしたけど……二人が決めた事なら、いいと思うから……仲良く、してあげて、ね?」
「おー、大人な意見ですねぇ!!理解が得られて嬉しいです〜☆」
「……そう……?」
「所でルレンさん、以前に何かメディア露出してたことってあります?」
 会話が自分のペースになったところで、カナタはすかさず気になっていたことを切り出す。
 ……ルレンが挨拶に来た日以来、微妙に気になっていた事だ。
「っ!……な、なに?なんで?」
「(……その答え方は肯定ですね)いえ、こないだうちに来てくれた時に、なんとなく見たことあるような気がして。直接会ってれば絶対に覚えてるんですけど、そうじゃないので……本とかテレビとか、そういったモノでみたのかなーとか思ったんですー。」
「し、知らない。知らないよ?」
「え〜、本当ですかぁ?僕の目を見ながら答えて下さい〜」
「や、あの、あの……」
 尚も詰め寄るカナタに、ルレンは目一杯の困った顔をする。

 ぴしゃっ!!

 突然、ルレンが背にしていたサッシが音を立てて開いた。
 ……そこに立っていたのは、エプロン姿のユーリグだった。
「……兄さん、今何か居ませんでした?」
 ユーリグが険しい表情で辺りを見回す。
 ――ルレンが濡縁に腰掛けている以外、特別変わった様子は見受けられない。
「え?あ、う、ううん……なんにも……?」
 ルレンは、おたおたと視線をさ迷わせた後で、首を横に振った。
「……そうですか。今お隣の子達が飲み物買いに行ってくれています。戻ったら始めますから、中で待ってて下さいな」
「う、うん、ありがと……」
 ユーリグは、にこりと優しい笑みをルレンに向けると、もう一度だけ周囲をぐるりと眺めた後、静かにサッシを閉めた。

「……恐るべき察知能力です……びっくりしました〜」
 ガラス越しにユーリグの姿が見えなくなってから30秒後。
 ようやくカナタが、飛込んだ濡縁の下から這い出してきた。
「……どうしたの?」
「いえ、ちょっとユーリグさんの殺気を感じまして」
「……残念。あのまま殴られりゃ静かになってよかったのに」
 今度は、ルレンの正面にしゃがみこんだカナタの背後から声が降ってくる。
 カナタが振り返ると、ちょうどユイがカナタの背に蹴りをいれようと足を振り上げたところだった。
「あっ!横暴次男ですー!!」
 ユイの足をぺちんと払いのけたカナタが非難の声を上げる。
「……おいおい、よりによってカナタの後ろ隠れるこたないだろ。……あ、でも一応カナタのがデカいな」
 知らない人間の登場に驚いたのか、ルレンは小さな体を更に小さくして、カナタの後ろに隠れてしまっていた。
「これが先刻言ってた二番兄ちゃんのユイさんです〜。
 で、こちらがお隣の……ルレンさん、そういえばさっきユーリグさん、「兄さん」とか言ってませんでした…?」
 気を取り直して、お互いを紹介しようとしたカナタの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
「い、言ってた、よ?……ユーリグは四番目、で……僕、二番目だから」

『にばんめ!?』

 俄かには信じがたい告白に、カナタとユイがハモる。
「み、み、見えないでしょう!?ユーリグしっかりしてるし、僕ばかだから年下に見られるんだ…!」
 顔を真っ赤にしたルレンが、服の裾を握り締める。
「つか、アンタいくつなんだ!?」
「……じゅうく……今年……にじゅ……」
「マジか!」
「見えません!!」
「ほんと、だよ?あ、後で免許証……みる?」
「免許?もってんのか」
「普通と……自動二輪」
「!バイク乗るのか?」
 自動二輪、に、工業科通い、バイクが趣味のユイが食い付いた。
「う、うん……小回り、利くし……車は……殆ど乗らない……持ってないし」
「今度見せてくれよ。俺も乗るんだ」
「……そうなの?……うん、いいよ」
 共通点を持った事で多少の親近感を覚えたのか、ルレンのユイを見る表情が和らぐ。
「ユイさん!二股は反則ですよ!」
 それをめざとく見て取ったカナタがすかさずつっこんだ。
「だっ、だれが二股だ!!お隣さんと交流してるだけだろが!!」
「僕も交流したいですー!えーとそれじゃあ〜携帯番号交換しましょうー!!」
「え、え、えと……」
「絶対誰にも言いませんから!勿論兄弟にもー!!」
「(次男ならユウの次にいれるのには具合がいいよな)よし、俺にも教えな」
「……うん……お隣さん、だもんね?」
「そうですー!お隣さんですし、将来家族になるんですから〜!!」

カナタ&ユイ 本日の収穫

ビビりの友人とその携帯番号+アドレス(のちにプレミアがつく事が判明)


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