「だからさ、あの店のが餡は絶対美味いって!」
「ハズミは味覚大雑把なんですよ、商店街の奥の和菓子屋の方が、こしあんとかきめ細かくて美味しいですよ!」
 レンとハズミは、向かいにケイを据え、なにやら「饅頭転じて和菓子談義」を繰り広げていた。
「…………」
「……ケイさん、どうしたんですか?」
 先ほどまでにこにこしながら話に聞きいっていたケイが、いつの間にか眉根をよせている。
 それに気が付いたレンが、はっと顔を上げた。
「すいません、こっちだけで勝手に盛り上がってしまって……!」
「ううん、聞いてて楽しいから続けて」
「……でもケイさ……ん?」
 よくよく見ると、ケイはハズミをじっと見据えている。
 隣を見れば、自身に注がれる視線に気付いたハズミが困ったような顔をしていた。
「………ハズミ………何したんですか……?返答次第では」
「は!?ちょ、ちょっと待ってよ僕なんにもしてないよ!」
「……ホントに?」
「カナタじゃあるまし、なんにもしないっての!!」
 ジト目で睨むレンに、ハズミはむすっとした表情を向ける。

瞬間。

「それだ!!」
『へっ!?』
 突然、ケイがその場に立ち上がる。
「どこかで見たんだ、思い出した!!」
「……僕、ですか?」
 叫ぶケイに、目を丸くしたまま固まったハズミが、ようやく口だけを動かす。
「ちょっと待ってて!!ユーリグ!!こないだのアルバムどこぉ!?」
「……アルバムだって」
「……そっくりさんの知り合いでも居たんじゃないですか」
 居間を飛び出して行ってしまったケイの後ろ姿を眺めながら、ハズミとレンはぽつりともらした。

「あったあった!ほらこれ、君でしょう?」
「えっ、あ、ウソ!!」
「ホントだ!ホントにハズミだ!!」
 ケイがたかたかと走って持ってきたのは、一冊のアルバムだった。
 表紙には、レンやハズミの知らない中学校の名前と、去年の西暦が書かれている。
 何ページか繰り、ケイがぴしっと指差した写真には、確かにハズミが写っていた。
「ほら、このむくれた顔!さっき同じ顔してたから」
 思い出せてすっきりしたのか、ケイはにこにこしながらアルバムを掲げてみせる。
「……これ、去年の関東大会の……?」
「関東大会?」
「僕行ったじゃん、覚えてない?陸部の」
「さ〜……遠征だなんだ、結構いろいろやってましたし……」
 ハズミはようやく写真に思い当たったようだが、直接関係のないレンには、該当する記憶がないようだった。
「これ、表彰式の写真でね、一位にいるのが僕の後輩」
「へー、あのぶっちぎりだったやつ、ケイさんの後輩だったんですか」
「そうなんだよ、結構世間て狭いねぇ」
「うわぁ、僕あの時誰がいたかなんて全然覚えてませんよ〜」
「ハズミ君、高校でも陸部?」
「あ、いえ、今は特に。」
「えー勿体無いー!!」
「必ず部活入らないといけなかったんですよ、ウチの中学。それで仕方なく」
「仕方なくで関東大会はずるいでしょ〜?」
「でも関東大会ですよ?全国いってませんよ?」
「関東大会だって立派だよ!勿体無いよ!」

「…………不覚………まさかケイさんとハズミにこんな繋がりがあったなんて………」
 盛り上がる陸上話についていけなくなってしまったレンは、サイダーのコップを片手にローテーブルから離れる。
 ……他の兄弟達はどこに行ったろう。そう思い、ぐるりと周囲を見回す。
 居間にいる兄弟達やマクドール家の面々は、それぞれ好きな所で何人か固まって談笑している。
 ……そんな中、一人部屋の隅にぽつんと立っている人物と目が合った。
 ……目が合ったというよりは、レンが注視されていたのに気付いた、が正確なところである。
「……どうか、しましたか?……えっと、ルレンさん」
 レンがそう声を掛けると、視線の主・ルレンは真っ赤になって目をそらした。
「えっ!?…えっ……あ、あの……ご、ごめんなさい、な、なんでも……なぃ…………です」
「……でも、僕のこと見てらっしゃいましたよね?」
「あ、その、それは……」
「………それは?」
 レンはルレンの前までやってくると、じっとその顔を覗き込んだ。
 見つめ返されたルレンは、どうしようかとふらふら視線をさ迷わせていたが、やがて上目遣いにレンを見上げた。
「…………なまえ」
「名前?」
「か……カナタがね、先刻……僕と、似た名前の兄弟が居る、って言ってたから……ど、どんな子かな、って……」
「そうでしたか。そうですね、一文字違いですもんね?」
「う、うん、そうだね、そうだよね?」
『…………』

 お互い、会話を交すのはこれが初めてである。
 どう続けたものかと、探りあいの沈黙が落ちる。
「………あの、ルレンさん……目、良くないんですか?」
 先に沈黙を破ったのは、やはりレンであった。
 マクドール家でいえばユウも眼鏡をかけているが、それに比べると明らかに不格好な分厚い眼鏡を、ルレンは小さな鼻先にのせている。
 純粋に疑問に思っていたことを、レンは聞いてみることにした。
「き、近眼で……家の中なら裸眼でもそんなに困らないんだけど……今日はお客様だから。失礼したらいけないし」
「ここはルレンさんのおうちなんですから、いくら失礼したっていいと思いますけど……コンタクトにはしないんですか?」
「コンタクトは必要な時だけ。……目、疲れちゃうんだ」
 眼鏡も疲れることは疲れるんだけどね、と、ルレンは小さく笑ってみせる。
「折角可愛いのに、眼鏡で隠れちゃって勿体無いですね」
「…………っ」
 レンの何気ない一言に、ルレンが真っ赤になる。
 ……その瞬間、レンの脳裏にある光景が蘇った。
 五つ子の中で、一番体格がよくウェイトもある筈のリクが、玄関先でユーリグに吹っ飛ばされた光景が。
 ……レンの頭から足へ、血液が一気に流れ落ちる。………気がした。
「……ああああのっ、僕は別に女の子っぽいとかそういう……」
「……?……」
 慌てて弁解しようとするレンを、ルレンがまだ赤い顔で、不思議そうに見上げた。
「……怒りました?」
「……なんで?今の、怒るとこだった?」
 ……ルレンは、その辺はあまり気にならないらしい。レンは内心、ほっと胸をなでおろした。
「ごめんね、僕ぼんやりしてるから」
「いえ!そんなことないです、僕の方こそ変なコト言ってすみませんでした!」
「………でね、あのね、レン?」
「はい、なんですか?」
「名前が似てるから…って理由はおかしいんだけど……な、仲良く、して……くれると、嬉しいな……」
 ルレンが、手に持ったままのマグカップの縁を、親指で擦りながら、恥ずかしそうに顔を伏せる。
「……勿論、喜んで。宜しくお願いしますね?」
 レンが優しく笑ってみせると、ルレンの顔がぱっと輝いた。
 にこにこと笑う顔は、まるで子供のそれである。
「……ありがとう!嬉しいな、今日は三人も友達が出来たよ」
「さんにん?カナタと……?」
「うん、ユイだよ」
「えッ!?ゆ、ユイですか!?意外!!」
「そう?さっきアドレスとか交換して貰ったよ?」
 目をむくレンに、ルレンはあっさりと言ってのけた。
「……思ってたより手ェ早いですねあの二人……ルレンさん、僕とも交換して貰っていいですか?」
「うん、いいよ」
 レンが携帯電話をひっぱりだすと、それに応えてルレンも、自身の持つ小さな端末をポケットから取り出した。
「わー、ありがとうございます〜!」

「え、あ、いいんですか!」
 興奮気味のハズミが、携帯電話をぱちんと開く。
「うん、走りたくなったらいつでも声かけて。後、新しいお饅頭を見つけたら速やかに連絡するように」
 にこやかに告げると、ケイは送信ボタンを押す。
「はい!絶対します!!今度この辺りの和菓子屋、まとめてメールしますね!!」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」

……尚、陸上話から再び和菓子談義に戻っていたケイとハズミも、似たような展開になっていた。

レン&ハズミ 本日の戦果

世間の狭さの証明
名前似てる同盟の発足
饅頭独占禁止法制定


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