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「ケイ、ケイ」
「ん?」
帰宅したケイが、部屋に入ろうとしたところで呼び止められる。
みれば、廊下のつきあたりの横から、ルレンが小さな頭を覗かせていた。
「只今ルレン、何?」
「おかえりなさい。……あのね、今日、事務所の人にこれもらったんだ」
と、ルレンが手にした包みをケイに差し出す。
「あ!揚げまんじゅうだぁ!うわぁ、いいなー!」
「はい」
案の定、目をきらきらさせはじめた弟の手に、ルレンは二つあった包みを、両方とも乗せてやる。
「あげるから、誰か好きな人と食べといで」
「えっ……いいの?」
「うん」
聞き返すケイに、ルレンはにっこりと微笑む。
「ありがとう!じゃあ、貰うね!……で、はい」
受け取ったケイは、一度包みを胸の前に抱えると、片方をルレンへと差し出した。
「…………え?」
「はい。一緒に食べよう?」
不思議そうな表情を浮かべるルレンに、今度はケイが微笑む。
「……ユウとかクラハじゃなくていいの?」
「そりゃ、ユウやクラハは好きだけどね?ルレンだって好きだもん、僕」
「ケイ……」
感動したルレンが、頬を赤くして肩をふるわせる。
「さ、晩御飯になる前に食べちゃおう」
「うん!」
「……兄さん、お箸がすすみませんね?美味しくないですか?」
料理が減らないルレンの皿を見て、ユーリグが心配そうに尋ねた。
「えっ……まさか、すごく美味しいよ?」
「具合……が悪いわけでもなさそうだな」
隣に座るクラハが、ルレンの顔色を確かめる。
同じ食卓についているケイは、自分の分を食べながら、ちらちらとルレンの様子を伺っている。
「……兄さん、食事の前にお菓子とか食べませんでした?」
「う。」
さては、と、ユーリグが軽く睨むと、ルレンは小さくうめく。
「……もうっ。ダメですよ、只でさえ兄さんは食べられる量が少ないんですから。おやつは食事に差し支えない量にして下さいな」
「ご、ごめんなさい……」
ユーリグが優しく叱ると、ルレンは小さな背中を丸めて頭を下げる。
「そんなに沢山、何を食べたんだ?私の分がなかったようだが」
クラハはにやっと笑って、ルレンのほっぺたをふにふにつつく。
「えへへ〜……ないしょ」
一瞬、ケイと目を合わせたルレンは、箸の先を自分の唇にそっと押し当てる。
「……まあいい。次は私の分も用意するようにな?」
クラハの、本気とも冗談ともつかないセリフに、一同はくすくすと笑い声を上げる。
『…………』
それに混ざり、ルレンとケイはそっと目配せをして笑いあうのだった。
『今日、また無断でルレン兄さんに差し入れしませんでしたか?』
ハズミが、携帯電話の画面を見て青ざめる。
「あらら〜、ユーリグさんお怒りモードですか?じゃあ僕はアオイさんのお部屋に疎開しますね〜」
後ろから覗き見たカナタが、ノートPCを小脇に抱えて、すちゃっと手をあげた。
「知らない、知らないよ僕!モノあげるどころか、今日は顔も見てないのに!!」
携帯電話片手にハズミはおろおろとうろたえる。
「いいな〜、ユーリグさんからのメール……メール〜…」
リクはリクで、そんなハズミをうらやましそうに眺めている。
「それよりハズミさん、それ、早めに返信した方がいいんじゃないですか?沈黙は肯定ととられますよ?」
「はっ!そっか、そうだよな、ちゃんと違うって言わないと、またユーリグさん乗り込んでくるかも……」
「返信阻―――止!!」
慌ててメールを打ち出したハズミの手を、携帯電話ごとリクが掴みあげる。
「ぎゃー!なにすんだバカリク――!!」
「だって、メール返さなかったらユーリグさん、ウチに来るかもしれないんでしょー!?阻止阻止阻止――!」
「アホ―――!僕をいけにえにする気かアホ――!」
「……これは本気で避難した方がよさそうですね……!」
カナタは大真面目な顔で一つ頷くと、すたこらと長男の居る部屋へと逃げ込んだのだった。
++了++
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