「カイルさーん!ルレンさんの載ってる雑誌見付けたんですけど、一緒に見ませんか〜?」
「あ、見たいな♪」
「流石カイルさんのおにーさんですね〜!可愛く写ってますよ!」
 カナタが差し出す雑誌には、バンドモードにスイッチの入ったルレンが、汗を煌めかせた写真が載っていた。
「……そういえばルレンさん、ライブの時って必ずカラコンですよね」
 ページを繰っていたカナタが、ふと手を止める。
「うん。ルレンさん、色味のある瞳に憧れているみたいで。……ほら、双子のクラハさんは赫い瞳でしょう?」
「あ〜……そうですね、カイルさんのおうちは黒系と赤系に分かれますよね」
「時々、クラハさんの目を見つめたままかたまっちゃう事もあるんですよ。……クラハさんも気にしない人ですから、そのまま何十分も動かなかったり」
「赤い目が好きなんでしょうか?」
「ううん、赤もだけど、青とか緑とか…とにかく自分と違う色がいいみたい」
「ふーん、ですー。まあウチは皆茶系ですしねー。ユイさんとハズミさんが若干色素薄めですけど……あ。」
「?どうしたの?」
「いえ、約一名変わり種がいました……まあ、本人別方向に夢中ですから、問題はないでしょうけど……」

 

 

「はー……今日は混んだなー……」

 夜。

 アルバイトを終えたリクが、帰路を辿っていた。
 マクドール家が見える辺りに来ると、自然と歩みがゆっくりになる。
(ユーリグさん、窓とか開けないかなー……)
 ついつい、淡い期待を抱いてしまう。

 そんな折り、リクの耳にバイクのエンジン音が届く。
 音は、どんどん近づいてくる。

(ユイ兄……?……じゃないな、音が違う)
 兄じゃないなら関係ない、と、リクが音に背を向けた瞬間。

 ぱあっ、と、背後からライトで照らされる。
「!?(ええっ、もしかしてひったくり?それともヤンキーがわざわざからみにきた!?)」
 瞬間的にやたらネガティブな方向に思考を飛ばしたリクには構わず、バイクはリクの隣までやってきて、ぴたりと止まった。
「こんばんは、リク。……今、帰り?」
 ライダーが、リクに向かってちょこんと会釈する。
 ヘルメットを通しているためくぐもってはいたが、それは紛れもなく「憧れの人が溺愛する兄」だった。


「なーんだルレンさんでしたか!絡まれるのかとドキドキしました」
「えっ、うそごめんね!怖がらせちゃった?」
 ルレンはエンジンを切ってバイクから降りると、被っていたフルフェイスメット を外す。

 少し乱れた黒髪と、鳶色の瞳が、外灯を照り返して輝く。
「話にはきいていましたけど……本当にバイク乗るんですね」
「うん。……ユーリグには、危ないから止めてくれって言われるんだけど」
「あー…確かにそこは否定できませんね」
「最初はね、このバイク家に置いてもらえないかもしれなかったんだよ。一生懸命説得して、やっと認めてもらったんだ」
 あはは、と、ルレンがいたずらっぽく笑う。
(ほんと、年上にはみえないよな……)
「?」
 思わず笑顔にみとれるリクに、ルレンが小首を傾げた。

「あ……っ、そうですよ、ルレンさん眼鏡じゃないですか。だからユーリグさん、余計心配なんじゃないんですか?」
「それもあるかもしれないね。コンタクトすれば大丈夫なのになぁ」
「今日はコンタクトなんですか?……見てもわかりませんね」
「そう?ほら」
 リクが頭を寄せると、ルレンがあかんべとばかりに下瞼を引っ張ってみせる。
(……よくわかんないな)
 単純に、よく見ようとリクが額を寄せたとき。
「……リクの瞳は青いんだねえ」
 先ほどまでとは若干異なる声音でルレンが呟いた。
「………え?」
「……綺麗な色だね」
 己が瞳に注がれる熱い(?)視線。
(あああいけません!僕にはユーリグさんという心に決めた人が――!!)
 妙な空気に、リクの思考が暴走しかけた時だった。

「……兄さん?」
 素晴らしいタイミングで、マクドール邸の玄関ドアが開く。
 エンジン音で兄の帰宅に気付いたユーリグが、いつまでも家に入ってこないルレンを心配して出てきたようだった。

 ……が、その目に飛び込んで来たのは、『大事な兄と隣の変態が見つめあっている』光景だった。
「あ、ユーリグ。ただいまー」
「はっ!あっ、ゆ、ユーリグさん!!こ、こんばんは!!」
 ユーリグに気が付いた二人が、何事もなかったかのように(実際に大した事はなかったのだが)振り向く。
「……お帰りなさい兄さん。ご飯、取ってありますから、バイクを置いてきて下さいな?」
「あ、うん!……引き留めちゃってごめんね、おやすみなさい」
 一度、リクに向かってにっこり微笑むと、ルレンは小さな体で、エンジンの切れたバイクをすたすたと押してガレージへと消えた。
 ……それを見届けてから、ユーリグはリクの前まで詰め寄った。
「ユーリグさん……!いい夜ですねっ、なんか虫もぴろぴろ鳴いて……」
「歯ァ食いしばれ。」


「…………ん?」
 外で何か聞こえたような気がしたルレンは、バイクに被せたカバーを慌てて整えると踵を返した。
「……あれ?」
 道路まで出てみたものの、玄関先で自分を待つユーリグ以外に、人影や変わったものは見当たらない。
「あれえ……何か音がしなかった?」
 ルレンが、不思議そうに辺りをきょろきょろ見回す。
「いいえ?何も。……ガレージの反響音じゃないですか?」
「…………そうかなあ?」
「そうですよ。さ、入りましょう?」
 ユーリグが、優しく笑って手招きした。

 

「た……ただいま……」
「あ、おかえ……ってぎゃ――――!!」
「ちょっと何ハズミ、変な声出さな……うわっ」
 台所番二人が、弟の惨状に思わず悲鳴を上げた。
「ど、どうしたんですかその顔……!」
「うわぁ、瞼パンパンになっちゃってんじゃん!!」
「……またユーリグさんに怒られちゃった……」
「あ、リクおかえ……ってぎゃ――!!」
「わー!顔面が漫画みたいな腫れ方してますー!一体どうやったらそんなんなるんですか〜?」
 台所に入ってきたナナトがハズミと全く同じリアクションをしたり、カナタが嬉々としてカメラを構えたりする。
「てゆーか何、ユーリグさんに会ったの?」
「うん……今たまたま……」
「で?何言ったんですか今回は?」
「えー、なんにも言ってないよー」
「いくらユーリグさんだって、なんの理由もなくそんなフルボッコするわけないじゃん」
「正直に吐いた方が身のためですよ〜?」

「ホントに、ホントに何にも!こんばんはいい夜ですねしか言ってない!!」
『ホントにぃ?』

(……ルレンさんとお喋りしてたのは……黙ってた方がいいな……)

 ヒドい目に逢ったのは自分なのに、何故か兄弟達に疑惑の視線しか投げて貰えないリクであった。合掌。

++了++


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