| †
VS.1 アオイ
近所のコンビニまでおやつを買いに出た帰り、お隣のアオイを見かけた。
歩いている時も、背中がまっすぐ伸びていて姿勢が綺麗。すぐに背中がまるまってしまう僕とは大違いだ。ああやって堂々と歩ける人は、モデルとかに向いてるんだろうな。
――目が合ったら、会釈してくれた。なんだか気恥ずかしい。
VS.2 ユイ
その後、家まで帰ってきたら、表でユイがバイクのメンテナンスをしていた。
「……こ、こんにちは、ユイ」
思い切って声をかけてみたら、ユイは「おう」とだけ返してくれた。
せっかくなので、メンテの様子を勝手に見学することにした。
工具を操るその顔は真剣だ。
慣れた手付きで作業を効率よく進めていく。勉強になるなあ。
作業に没頭しちゃうあたり、ユウと似ているのかも。
「……面白いか?見てて」
作業がクリーニングに入る頃、ユイはようやく口を開いた。
「うん」
「そうか」
僕が即答したので、納得してくれたらしい。
少し日が翳って来たので、開けっぱなしの工具箱に麦チョコを一袋詰めて退散。
VS.3 レン
「あっ、ルレンさん、こんにちは。お邪魔してます」
「こ、こんにちは……」
家に入ると、玄関には見慣れない靴。
居間に行くとクラハとレンがなにやら話し込んでいた。
ローテーブルにはおまんじゅうがいくつか。
レンは、何処かで新しいおまんじゅうを見付けると、こうして持ってきてくれている。
「ルレンさんはお買い物だったんですか?」
「あ、う、うん……」
「……あ、すみません、おやつ買ってらしたんですね」
袋越しに見えるお菓子のパッケージに、タイミング悪かったなぁとレンが笑う。
僕のことなんてかまわなくてもいいのに。レンのおまんじゅうは、ケイとクラハの為だもの。
それでも、レンは僕に「すみません」と謝る。優しいんだなあ。
僕が口を開く前に、クラハが「かまうことはない。どちらも私が美味しくいただくからな」と言ってしまったので、僕は言うことがなくなってしまった。
チョコクリームサンドのビスケットを置いて部屋に戻る。
VS.4 リク
夕方、少し涼もうと庭に出たら、リクとユーリグが家の前で話しているのが見えた。
リクはなにか一生懸命話しているのに、ユーリグはそっぽを向いている。
ユーリグは恥ずかしがりやさんなので、よその人には時々ああいう態度になってしまう。
本人に悪気はないのだけど、リクがすねてしまいやしないかと、少しだけ心配になる。
……しかしリクは、そんなことはお構いなしに、身振り手振りを交えて、相変わらず一生懸命喋っている。
よかった、杞憂だった。
リクは、見掛けどおり心持ちの大きな子のようだ。
……邪魔になるのも嫌なので退散。
窓を閉めるときに、なにか大きな音がした気がしたけど、後でユーリグに聞いたら「知らない」と言われたので、たぶん僕の空耳か勘違いだろう。
VS.5 ナナト
ぼんやり窓の外を眺めていたら、ナナトが自転車で帰ってくるのが見えた。
長い筒のようなもの…たぶん、バットのケースだろう。
それと、リュックを背負って漕ぎづらそうに自転車を漕いでいた。
降りて押せば多少楽だろうに、頑張りやなんだな。
ナナトが完全に見えなくなってから、カーテンを閉めた。
VS.6 カナタ
カナタとは、直接会うよりメールやネットでのやり取りの方が多いかもしれない。
『とか言うんですよーあのデコハゲ!ありえませんよねー!(笑)』
文字だけのやり取りでも、カナタの話は楽しい。
『ごめんね、そろそろ作業に戻る。やること溜まってるんだ(-_-;』
『そうですかー!それではまたお話してくださーい☆(^O^)』
『うん。またね』
『お疲れ様ですー!』
挨拶を確認して、メッセージ画面を閉じる。
……と、ベッドの上の携帯が鳴った。メールだ。
見れば、カナタからである。
メールをひらくと、かわいいイラストが画面の中でぴこぴこと踊っていた。
カナタは、こういう所にものすごく細かだ。
どうしたら相手が喜ぶのかを、いつも考えているんだろう。
もって生まれた気質もあるのだろうが、本人もきっと努力してるんだと思う。
お隣の子は、皆いい子で頑張りやさんだ。僕もみならわないと。
……あれ、そういえば。
††
「今日、ルレンさんを見掛けたぞ」
居間でくつろいでいたハズミに、アオイがぽそっとこぼす。
「えっ、そうなの?どこで?」
「コンビニの側だ。道の反対側だったから、目を合わせた程度だが」
「それなら僕もお会いしましたよ、クラハさんとルレンさんに」
すると、今度は向かい側にいたレンが、心なしか嬉しそうに言う。
「……また饅頭提出か」
「ビスケットごちそうになりました♪」
「ああ、ルレンさんならさっきまでお話してました。お仕事たてこんでるみたいです」
更に、畳に腹這いになってノートPCをいじっていたカナタがハイハイと手を上げた。
「さっき……って、お前ずっとココいたじゃん!」
「ルレンさんは僕の電波を受信してくれるんです〜☆」
「お前ルレンさんにばかすか迷惑メールとか送りつけてんじゃないだろうな!?」
「まさか。メールじゃ「お話し」とはいいませんよ……まぁ、ハズミさんじゃそのメールを送りつける事も出来ないんでしたっけ?ご愁傷様でした」
PCの画面を見つめたまま、カナタはにやりと笑う。
「うわームカつくムカつくムカつく――!アオイちゃん!殴ってイイ!?」
「いまのじゃダメ。」
「うわーん!アオイちゃんまでバカナタの味方するぅ〜!」
カナタが行き過ぎ、と判断されるとアオイが叱ってくれたりもするのだが、今のやりとりではそうは判断されなかったようだ。
ハズミがくやしがってテーブルをばしばしたたく。
「あれ〜、ユイ兄麦チョコなんか食べてる」
その騒ぎをよそに、ユイは新聞を眺めながら、ぽりぽりと麦チョコを食べていた。
「いいな〜、ちょっと頂戴!」
「僕も僕もー!」
それを見たリクとナナトが、わきゃわきゃとユイに集りにかかる。
「あ?……ったく」
きらきらした目で寄ってくるリクとナナトに、嘆息しながらもユイは麦チョコをわけてやる。
「ユイさんにしては子供っぽいチョイスですね」
「俺じゃねぇよ。貰いモンだ……多分」
カナタのツッコミに、ユイはぼそりと答える。
「多分てなんですか」
「いつの間にか置いてあったんだよ、工具箱ン中に」
「………なにそれ」
「俺がバイクいじってる間に話した人間は…一人だからな」
「…………!」
ユイが言わんとしていることを察したハズミが、更にむすっとした顔になる。
「あっ、ユイさんずるいです、僕にもくださーい!」
「ハズミ?何ぶすくれてんですか?十人並の顔がそれ以下に……」
「もー、いーからほっといて!」
「皆見たのに、ハズミにだけは会わなかったなぁ……」
湯船に口元までつかったルレンは、今日一日を反芻しながら、口の中でぽつりと呟いた。
++了++
|