「ハズミ君♪明日なんの日だか知ってるー?」
「ハズミ!明日だよな〜?」

「……うっさいなーもー……」

 10月30日。

 ハズミは朝からぶすくれていた。
「この国にハロウィンなんて持ち込んだの、一体どこのどいつなんでしょーね」
 ハズミの隣では、朝から概ね同じ目に遭っているレンが大きなため息をついた。
「菓子作ってきてさァ、売ったら儲かると思わない?」
「校内で商売は流石に怒られると思うんですが」
「だってークラス中にばら蒔く量の菓子って、材料だけでいくらかかるのさ!?」

 ハズミとレンの料理の腕前は、クラスでは知らない者はいない。
 その為、明日のハロウィンの菓子をたかろうと、朝からクラスメイト達が代わる代わる声を掛けに来ているのだった。

「作らなくったって飴玉一袋買って来てばら蒔きゃいいじゃないですか」
 冷静に突っ込むのは、なにやら縫い物中のカナタだ。
「それで納得してくれるなら、それでもいいけどさ」
「おかず欲しさに勝負挑まれるクラスですよ?下手に逃げを打つと逆に煽る事になるかも」
 嘆息する二人に、カナタが肩をすくめる。
「そーゆーモンですかね?あ、明日カイルさんに差し上げるおやつが欲しいので何か作って下さいね?」
「……そこで僕らが市販の飴玉一袋渡したらどうします?」
「……ふくれますね」
『でしょ?』
「仕方ない、帰りに材料買って行きましょう。何作ります?」
「クッキーでいいんじゃない?量産向きで持ち運びしやすいし」
「あ、僕ひらめきましたよー!ちょっとお耳を拝借!ですー☆」
「え?なに?」
「ぅひゃっ、息吹きかけんなバカ!……ん?……ふんふん」
「あ、いいかも。流石黒いブレイン」


「高校入ってからますますモテモテだね〜あの二人。モテるベクトルがちょっとおかしいけど」
 その後ろでは、優しく三人を見守るナナトと、一人首を傾げるリクがいた。
「うん……(なんで誰もカナタの縫い物にはツッコまないんだろう……)」

 翌日、放課後。

「それでは只今より〜!デュナン杯・ハロウィンおやつ争奪戦を開催いたしまーす!!」
 教壇によじ登ったカナタが声を張り上げた。
 着ているのは何故か制服ではなく、蛍光グリーンが目にも鮮やかなかいじゅう(漢字よりひらがなで書いた方がしっくりくるような、ファンシーな雰囲気である)の着ぐるみである。
「景品は全部で10コ!中身は一緒です!我が家の台所番共が夜鍋して作ったお菓子がみっちり詰まってます!!」

 わああああ!

 カナタの言葉に、実に90%以上が居残っているクラスの面々は大いに沸いた。
「…………」
「レン、終わったら起こすから寝てなよ?」
「……寝たら……起きれないからいい……」
 カナタの言葉通り、昨日はバイトだったハズミの帰りを待って、夜を徹しての菓子づくりに取り組んだのだった。
 朝早いレンは結局一睡も出来ず、今日はずっと舟をこぎっぱなしである。
「それでは!第一回戦いっきまーす!さーいしょーはぐー!」

 かくして。
 着ぐるみカナタの元、お菓子詰め合わせ争奪ジャンケン大会の幕が上がったのだった。


「ふー☆大盛況でしたねー!」
 カナタが、着ぐるみの手で額を拭う。
「あれなら貰えなかったヤツは貰えたヤツのとこタカりに行くもんな!」
「さあ!働いたんですからギャラを下さい!」
「あーはいはいお疲れさん!……ほい」
 しぴっ!と差し出されたかいじゅうのおててに、ハズミが先ほど景品にしたものと同じ詰め合わせを渡してやる。
「わーい!お菓子ゲットです〜!では僕はこれからカイルさんの所に……」
「……はいはい、僕も今夜お隣にお菓子差し入れに行きますから、一緒に行きましょうねー?」
 カナタが駆け出すより早く、その背にレンが覆い被さる。
「あっ、あっ、レンさん首!首入ってます!はいっちゃってますよギャ――!!」
「レン……眠さのあまり手加減出来なくなってる」
「見境のないレンて珍しいよね」
「写メでも撮っとく?」



「………眠い」
「レン〜、今寝たら置いてくからね?」

 夕食の後。

 レンは頭を左右にふらつかせながら、必死で眠気を堪えていた。
「……ハズミ眠くないの?」
「眠いっつかダルい?ま、僕は寝てるからね、一応」
「……そ〜……」
「いいから早くして下さいよー!」
「せかすなら手伝えそこの蛍光色!!」
 未だ着ぐるみ姿のカナタがぶいぶい手を振るのを、ハズミは皿をぬぐいながらどなりつける。

 ぴんぽーん♪

 その時、玄関でチャイムが鳴った。
「あれ、なんか来た?」
「ちょっと、誰が出てよー!」
「オレが出よう」
 長兄の役目、とアオイが立ち上がった。

「はっぴーはろいーん!」
「とりっくおあとりーとー!」

 ぴくん!!

 アオイが部屋を出て数秒後、突如玄関で楽しげな声があがった。
 その声を聞くなり、レンが覚醒する。
「い、今ケイさんの声が……!!」
「ヒロさんの声もしたよー!!」
 レンとナナトが、先を争って飛び出していく。
「ユーリグさん!?ユーリグさんは!?」
「カイルさん!カイルさんはいずこですかー!?」
 続いてリクが、その後にカナタが、きゅっきゅと足音をたてながら玄関へ向かう。(足音は着ぐるみの仕様のようだ)

「えへへ〜、こんばんは!驚いた?」
「今日はハロウィンでしょう?思い切ってコスプレしてみましたー☆」
「……この服ってもしかして」
『「リァン」の衣装でーす☆』
 仲良く声をハモらせたケイとヒロは、着ている服の裾をひらひらさせながら笑う。
 ケイはダークスーツをシルバーアクセサリーで飾ったもの、ヒロはチャイナ風スーツを着込んでいる。
「ルレンのだから、ちょっとサイズ小さめなんだけどね」
「びっくりした?」
「す、すっごくよくお似合いです!!」
「しましたしました!!びっくりしました――!!」
 きらびやかな想い人に、レンとナナトはすっかり舞い上がってしまう。
「……玄関ではなんですから……中へどうぞ」
「あっ、あのさ、僕らは迎えに来たんだよ」
「これからうちでハロウィンパーティーするから、一緒にどうかと思って」
『わー!行きます行きます!!』
 ナナトと、玄関に出てきたリク、カナタは両手を上げて喜ぶ。
「……是非伺いたい所なんですけど……いいんですか?」
 眠気が吹き飛び、冷静な思考力を取り戻したレンがおずおずと尋ねる。
「大丈夫だよー!レン君もおいで?……あ、ユイ君はこなくてもいいかな」
「………聞こえてるぞちっこいの」
「ちょっ、ちょっとなんなのさー!皆して置いてきやがってー!!」
 一人台所に取り残されたハズミが、力一杯不満の声を上げた。
「あれ、ハズミ君どうしたの?」
「ハズミさんは罰当番で皿洗いなんですよー!」
「あ、なら手伝うよ?」
「僕も!」
『駄目です!衣装が汚れますから!!』
 手伝おうと袖を捲り上げたケイとヒロを、残りの五つ子が必死になって止めた。
「……覚えてろあいつら……!!」



「カナタ君は怪獣?かわいいね〜」
 ケイが、かいじゅうのしっぽを持ち上げてふにふにいじる。
「えっへん☆自信作ですよ!!……ウチは僕だけですけど、カイルさんは何か衣装着てます?」
「うん、一応皆着てるよ」
「ユーリグさんも!?」
「うん、みんな。」
 割って入ったリクの言葉に、ケイはひとつ、こくんと頷いて見せる。
「きらきらカイルさ〜ん!最初に拝むのは僕です!」
「それならきらきらユーリグさんを最初に拝むのは僕です!ユーリグさーん!!」
「あ、いや二人は……ま、見た方が早いか……」
 ものすごい勢いで飛び出していった二人の背に、ケイが申し訳なさそうに呟いた。

 

「いらっしゃい」
 マクドール邸玄関で抜け駆け二人を待っていたのは、警戒心バリバリのユーリグだった。
「……ありゃ?」
「……ユーリグさん、コスプレしてるって話だったんですけど……?」
 カナタとリクが、揃って首を傾げる。

 二人を迎え撃つ……いやいや、出迎えたユーリグの格好は、黒いTシャツに同色のボトムだった。
 このまま外に出ても全く問題ないような服に見える。
「してますよ?ほら」
 ユーリグが、くるりと後ろを向く。
「……あ。」
「……スタッフTシャツ。」
「兄さんのライブスタッフのコスプレです」
 黒地の背中には、「STAFF」の文字と共に、ルレンのバンドのシンボルロゴがいれられていた。
「はっ!まさかカイルさんも?」
「カイルさんは違う衣装着てますよ」
「よっしゃー!カイルさーん!!」
「あ、こんばんはカナタ」
 カナタが叫ぶと、呼ばれたと勘違いしたカイルが、律義にも玄関に出てくる。
 その衣装は、きらきらでもTシャツでもない……黒いツナギだった。
「……カイルさん?その服は一体……?」
「これ、ルレンさんがスタッフをやるときの作業服なんだって。これはバンドのメンバーしか着ないから貴重なんだよ?」
 言って、カイルは黒いツナギを誇らしげに見せる。
「……作業着姿もかわいいですカイルさーん☆」
 数秒で頭を切り替えるあたり、カナタは柔軟だった。
「ユーリグさん!せっかくなんですからユーリグさんもルレンさんの衣装でげふっ。」
「……今度君達のいない所で借りてみるよ」
 剛直リクはストレートに突っ込んでいつものように玉砕していた。


「お邪魔しまーす!あっ、ユウさんこんばんはですよ!」
「こんばんは。……それは……何かのキャラクターか……?」
「えっへん☆自作ですよ!ユウさんもスタッフTシャツということは……クラハさんとルレンさんも?」
「いや、私はこれだ」
 その時リビングに入ってきたのはクラハだった。
『ふおぁぁ……!!』
 瞬間、カナタとリクが声をあげる。
 恐らくこれもルレンの衣装なのだろう。黒い羽根とラメで飾られた豪奢な衣装を纏ったクラハが、そこで仁王立ちしていた。
「ケイさんとヒロさんは王子様でしたけど……」
「完全に王様だね……」
「カナタはうまそうな仮装だな。……リクは何もしないのか?なら後で私の服を……」
「クラハ。ルレンは結局どうしたんだ?」
「ん?ああ、着せてきた。……ルレン、いつまでそこに居る気だ?」
「ルレンさん?廊下にいるんですか?」
「ルレンさんは流石にステージ衣装着てますよね!?」
「いや、ルレンが着ても仮装にならないだろう。いつも着ている服なのに」
「え……でもツナギやスタッフTシャツもいつも……」
「だから、違う服を着せた」

「ただいまー!皆連れて来たよー!!」
「あー!!ルレン着たんだ!!かーわいー!!」
 その時、残りのメンツを連れてケイとヒロが帰ってきた。
 ……階段とリビングの間の廊下に居たルレンは、まんまと二人に捕獲される。
「や、は、離して二人とも〜!」
「大丈夫だって可愛いから!」
「せっかく皆来てくれたんだし、おどかしてあげなきゃ!」
「う、う〜……」
 真っ赤になって奇妙な唸り声をあげるルレンは……顔に負けない程真っ赤なドレスを着せられていた。
「うわ、本物の女の子みたいです!」
「……いや可愛いですよ……!」
「……アオイ?なんだその感慨深げな顔は」
「…………(見覚えがある……「ハルカ」の衣装か……)」

 デュナン家の兄弟達が見とれる中、最後に戸締まりだの差し入れの用意だのしてきたハズミがのこのこやってきた。
「あーもー!皆して先に行っちゃうんだからー!」
「あっ、ハズミ君ご立腹だよ!」
「ルレン、なだめてきてあげて♪」
「えぇっ!?や、あの、ちょっと……!!」
 玄関先に押し出されたルレンと、玄関に踏み入れたハズミの視線が、瞬間かち合う。
『…………!!』
 ……そのまま、お互い真っ赤になってフリーズする。
「……ハズミ、誉めなくていいんですか?」
「ルレンも、いらっしゃいって言わないの?」
『えっ!?……あ……うん』
「……なんか妙に息合ってんな」
「最近、ハズミとルレンさん仲いいよね?」
「ユーリグさんの鉄拳の餌食になるのも時間の問題ですね……」
「(仲良くなれて)よかったな……ハズミ」
『………鉄拳が?』

「………あ………る、いやあの……えっと……」
「は……あ……あの……あ、あぅ……」
「………こ………こんばんは………」
「…………こ……………と……とりっくおあとりーと!」
「はっ、はいっ!?」
「とりっくおあとりーと!………お、お菓子をくれないと………くれないと、おうちに入れてあげません!」
 ……パニックを起こしたらしいルレンは、突然奇妙な事を口走りだした。
 ドレス姿で顔を真っ赤にそめ、震える足で何故か仁王立ちする様子は、まるで乙女のそれである。
 一方、宣告を受けたハズミは。
「えっ……ええと……はい」
 突然の事に数秒フリーズしていたが、はっと我に返ると提げていた袋から、オーガンジーやらサテンやらのリボンで飾られた包みを取り出し、ルレンに差し出した。
「えっ、あっ…………」
「他のご兄弟の分も、ちゃんとありますよ?」
「…………それじゃあ………どうぞ」
 ルレンは包みを両手で受けとると、恥ずかしそうに目を伏せ、体を壁際へよせた。
「……あ、ありがとうございます……」
 ルレンが道を開けると、それまで背後で野次馬……ではなく、優しく見守っていた兄弟達も、ぞろぞろとリビングへと進んでいった。

「……ルレンさんも、いきましょう?」
 壁に張り付いたきり動かないルレンを振り返り、ハズミが促す。
「……呆れた?」
「……へ?」
「……似合わないドレスなんか着てたり、出会い頭に変な事言ったり……お菓子まで催促したり」
「ドレスはよく似合ってますし、あとは全部、ハロウィンなら当たり前の事ですよ」
「だけど……」
「……別に、ハロウィンでなくたって、アナタが言って下さるなら……なんだっていいんですけどね」
「……え?」
「――それじゃあルレンさん。トリックオアトリート?」
「え……ぁ、あ……っ!」
 今現在、ルレンは先程ハズミに渡された分しか、菓子を持っていない。
「……ごめんね、今、お菓子……持ってない」
「……じゃあ、トリック、ですね?」
「うん……あの、何、するの……?」
「うーん……じゃあ、こうしましょうか」
言うと、ハズミは先程ルレンに渡した包みから、細いサテンのリボンを引き抜く。
「確かこうして、こうして……出来た」
「え……?何したの……?」
「ちょっといたずらしたんですよ。はい!皆さんに見せに行きましょうね?」
「えっ、あっ、あの、ハズミ……!?」
「はーい皆さん、お姫様の入場ですよー?」

「あ、髪やってもらったの?」
「わー、すごいー!」
「なんだ、ボンネットを嫌がると思ったら……リボンがよかったのか」
「ああ、可愛いじゃないか。……ほら、一周回ってご覧」
「……なに?どうなってるの……?」
「ご自分でご覧になってないんですか?……はい、どうぞ」
 ユーリグが差し出す手鏡を受けとると、ルレンはそれをそっと覗き込んだ。
「……わあ」
 そこには、片側のこめかみから、コバルトブルーのリボンと共に丁寧に編み込まれた、自身の黒髪が映し出されていた。
「……またハズミさんのむっつりスケベが発動しましたよ」
「ホントにハズミは、時々とんでもない事をさらっとやりますよね」
「ハズミ、なんでみつあみなんか出来るの!?すごくない!?」
「いいな〜……僕もユーリグさんの髪いじってみたい……」
 満足気なハズミを残りの五つ子は様々な思惑の混ざった目で見つめる。
「……ハズミ」
「ん?何?」
「……折角服が赤いのだから、リボンも赤の方がいいんじゃないか?」
 普段、あまりこういう時に発言をしないアオイが、珍しくハズミの肩口を突付いて囁いた。
「ああ、ありゃルレンが好きな色だからだろ。あいつ、有彩色は似合わないからって身に付けようとしねぇけど、ああいう……青緑?好きだからな」
 それを聞き取ったユイが、隣でさらりと答える。
「……なんでそこでユイが解説するかな」
「ンだよ、俺は単にダチの話をしただけだ」
 アオイをはさんで、ユイとハズミがじとっとにらみ合う。
「……ルレンさんの好きな色、わざわざラッピングに使ってたわけですか」
「ほんっっとにムッツリですよね!あそこまでやってどうして認めないんですか、あの愚弟は!」
「……僕には勝ち組の余裕に見えるよ……しくしく」
「……好きな色までリサーチ済みなのかぁ!やっぱりハズミってすごいなー」
その様子を眺めていた残りの五つ子は、おのおの溜息をつくのだった。

「ルレン、こっちへ」
 俄かに暗雲がたちこめたデュナン家をよそに、クラハはきらびやかなまま携帯を取り出す。
「え、写真撮るの!?」
「ロウに送るだけだ。今日は忙しくて深夜にならないと来れないと言っていたが、これを送ればきっとすぐ来るぞ」
「……そ……そうかな……?」

「……ハロウィンらしく、血生臭い夜になりそうですね〜……」
「確かに、本来の意味で言えばそうなんですけど……ケイさんが怖がってしまうので、そのあたりの発言は控えて下さいね?」
「ああっ!またちょっと眠気に負けてきてますねレンさん!……く、首クビ首がぁぁぁ!!」

++了++


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