それは、衣替えも済んだ10月頭の事だった。

「え〜と〜、それじゃあ〜、文化祭の出し物について話し合いたいと思います〜。意見のある人手ェ挙げて〜」
 クラスでは、LHRを使って文化祭について話し合っていた。
「はーい!」
「はいカナタ」
「せっかくの文化祭、どうせなら稼いでうはうはしたいです!その為に何をすべきか考えてきました!」
「というと?」
「文化祭の花形は、なんと言っても飲食系です。でも屋台だと作り置きが制限されます。そうすると味にばらつきが出てしまうので危険です!そこで僕は喫茶店を提案します!!」
「喫茶店、ね。そうすると……」
 クラス委員が、黒板に書き出しながら若干渋い顔をする。
「食販を勝ち取らないといけないのか……」
「そのとーりです!」

 高校文化祭における食品販売の規制は厳しい。
 学校側としても目を届かせる為、食品販売は許可が出る数が限られている。
 作った食べ物を販売するなら、更にその中で制限される「調理販売」の枠を勝ち取らなければならない。


 まず各団体(クラス・部活・有志etc…)から希望を募り、食品販売希望の団体代表を集めくじ引きになる。

 毎年、参加団体の90%以上が食品販売に希望を出す。しかし、食品販売の枠が取れるのはその内の半分以下、調理販売に関しては更にその半分である。

「それに関しても大丈夫です!レンさんにくじ引き行ってもらえばいいんです!」
「…………は?」
 唐突に飛び出した自身の名前に、レンは眉をひそめた。


 二日後。


「勝ちましたー☆」

 『勝訴』と書かれた半紙を掲げ、カナタが高らかに叫んだ。
「いや、別に勝ったというわけじゃ…」

 昨日の放課後に行われたくじ引きで、見事調理販売を引き当てたレンは苦笑いを浮かべてひらひらと手を振った。
「さすがレンさん、Luk値高いですよね〜」
「せめて「日頃の行いがいいから」位言って下さいよ」
 カナタは褒めているつもりだが、レン本人は不満そうである。

「じゃあカナタ、前出てきて喋る?」
 教壇のクラス委員がカナタを手招きする。
「これはこれはお気遣いいたみいりますですよ!……ではー!詳細煮詰めたいと思います!えーと、幸いこのクラスには料理しか取り柄のないムッツリスケベと」
 瞬間、現国の教科書がすっとんできて、カナタの額にクリーンヒットする。
「……と、お菓子研究家が居ますので、その辺とあと有志でメニュー作成チームを作ります。お菓子もですけど、お茶や珈琲が好きな人も是非協力してください」
「でもそこにそー何人もいらないだろ?残りはやることねェの?」
「バカ言っちゃいけません!もっと大事なのは内装と衣装です!」
「衣装って……なに、ア○ミラでもやるの?」
「それもまぁいいんですけど、あれだと野郎が喜ぶばかりになってしまいます。喫茶店といえばケーキ、ケーキといえば女の子とお子さんです!そこで!ややベタではありますが、僕はメイド喫茶を提案します!」
「メイド喫茶!?」
「メイド喫茶と言っても、昨今のミニスカニーソvvみたいなのではなく、クラシカルな王道メイドさんです!なにが王道なのかわからない人は今すぐ本屋か漫喫行ってエ○を読んで下さい!……あ、コルセットは流石にしなくていいですけど」
「それ、衣装作るわけ?」
「統一感出したいですから、出来れば作りたいですね。外注なんかしたらバカ高くつきますし!あ、デザインと型紙作成は、他に立候補いなければ僕やりますんで。黒のワンピースにエプロンですから、作って作れない事はありません!」
「まあ……黒のロングワンピくらいなら、着てもいいけど……」
「野郎は裏方?作り置きするなら当日楽出来そうだな〜」
「女子オンリーで変なのに絡まれてもいけませんから、男子も数人、ホールに配置しますよ」
「女子を当日、ホールに集中させないといけないなら……ケーキづくりは男の仕事になるね」
「じゃあレンとハズミに陣頭指揮とらせよう。おまえら責任者な!」
「調理に関しての責任者ってならやってもいいけど?」
「家庭科室って押さえられますか?ケーキ焼くならオーブンも押さえておかないと……ダメならレンタルしないといけませんよ」
「あと冷蔵庫なー。ケーキなら絶対生クリームいるし」
「テーブルとかって、会議室の使えないかなあ。教室の机ってガタガタするじゃん」
「椅子はこれでいいとして、クッション作りますか」
「子供ターゲットにするなら、おこちゃま椅子用意する?」
「技術室の廃材でいっこくらい作れないかなぁ?」
「おい、うちのクラスで技術の成績一番いいの誰だよ?」
「はーいはいはい!ではまず、メニュー考案の責任者と内装・衣装考案責任者決めます!」
「カナタとハズミでいいだろ、ソレ」
『異議なし!』
「おけです!ではメニュー責任者ハズミさん、内装と衣装が僕、統括をレンさんにやらせるってことで!」
「はいよー。じゃーメニューについて意見のある人!僕ンとこ来てね!ナナト、書記!」
「えっ、あ、はいはい!」

「まず衣装のデザイン決めてからの方がいいですね。ご意見募集中ですよ!」
「スカートってロング限定?」
「シャー○ー丈まではOKです。頭は……カチューシャで統一したほうがいいかもですね。どっかでレースまとめ買いしましょう」

「ぶっちゃけた話、資金ってどの程度まで出ます?あと家庭科室、最低机一本、オーブン一台と冷蔵庫にスペースが必要です。使えないと、全部レンタルになっちゃいますよ」


 このクラスの人間は皆、基本お祭り好きである。
 案が具体的になってくるに従い、クラス内のテンションも上がってくるのだった。



 そんなこんなで数日が経過。


「ハズミ君!今日掃除当番!!」
 ホームルーム終了と同時に教室を飛び出そうとしたハズミを、クラスメイトの少女が呼び止める。
「ああそうだっけ!でも早く行かないと家庭科室取られちゃうし……リク!当番代わって!!」
「え?あ、うん……」
 既にメニューの試作が始まっており、ハズミはバイトのない日の放課後は家庭科室に入り浸りである。

「カナタ!お前日直だろ!?」

「すぐ行かないとゆわざやのタイムセール(10分間限定)に間に合いません!リクさん代わりによろしくですよ!!」
「えぇ〜!?」
 カナタはといえば、最近は衣装や内装に使う布類を買う為、徒歩圏内の手芸店を渡り歩く日々を送っている。
 箒と日誌を手に、リクはため息をついた。


「あ、リク。もう帰ります?いつものスーパー、4時半からタイムセールあるんです。お使い頼まれてくれませんか?」
「うええええ!?また!?」

 リクが掃除を終え、日誌を置きに行って戻って来ると、数人のクラスメイトと机を囲んでいたレンが振り返った。
「……不服ですか?じゃあ代わりにこっちの書類作る方、やってもらえますか?そしたら僕、喜んで買い物行くんですけど」
 にっこり笑った(でも目が笑ってない)レンの手の中で、紙の束が重そうにばさりと鳴る。
「……ごめんなさいお買い物行きます……」
「すいませんね、これまとめるのに時間かかっちゃいそうなので」
「……ごはんは作ってくれるんだよねえ?」
「作りますよ?あ、でもお米だけ炊いておいてもらえます?あとお風呂も沸かして下さいね。ちゃんと洗ってからですよ?」
「ヤブヘビ――!!」
 レンの容赦ない追加オーダーに、とうとうリクはその場に崩れ落ちた。



「メニューにハンバーグは要らないかねぇ」
「ハズミ、やるのは『喫茶店』であって『レストラン』じゃないんですよ?」

 夕飯時。
 自身で作ったハンバーグを箸でつつくハズミにレンがつっこんだ。
「でもさぁ、野郎向けに甘くないメニューも要ると思わない?」
「思いますけど、軽食の範囲でないと」
「じゃあピザトーストとか?」
「それならいいんじゃないですか?トースター確保出来れば」
「あ、トースターなら体育教員室にあるよ!おもちやいてるの見たことある」
「ハズミさん、当日までにアホみたいにクッキー焼いて下さいね、単品の飲み物に数枚つけますから」
「紅茶につけるなら、堅焼きのシナモンクッキーだよね!」
「ハズミ、そこは普通のバタークッキーでいいんですよ」
「シナモンは好きな人と嫌いな人と分かれるからね〜」
「カナタの方はどうなんです?材料集め順調にいってますか?」
「今日は上手いことボタンのセールにあたりました!ボタンって意外と高価いんですよね〜」
「あっそうだ!焼きそばって作るの難しい?」


「ね〜ね〜、あのさぁ!」
『何(ですか)?』
 一際大きな声を上げたリクに、残りの五つ子は揃って視線を向けた。
「皆文化祭の支度忙しいのは分かるけどぉ、なんか僕にばっか他の用事押し付けてない〜?」
『押し付けてますよ?』
 レン・ハズミ・カナタが声を揃えてきっぱり言い放つ。
「衣装のデザイン僕がやってますから、僕が材料揃えないと、イメージ変わってきちゃいますし。忙しいんですよ、今」
「メニューまだ半分くらいしか決まってないんだもん。皆に作り方のレクチャーもしないといけないし。賞狙ってるからね、手ェ抜けないもん」
「僕なんかクラス委員でも実行委員でもないのに統括やってるんですよ、手綱握ってないとこの二人、暴走するんですから。特にハズミ」
「……ううっ……!」
 三人にまくしたてられ、思わずリクはうめく。
「だ、だ、だったらナナトだって……」
「ナナトは部活の方で店出すんでしょう?」
「焼きそばの屋台やるんだよー。後で作り方教えてね」

「……リク、自分でもわかってるっしょ?」
「…………あう」
 ハズミに肩を叩かれ、リクはがっくりとうなだれる。

『今暇なのリクだけなんだから。』
「…………ううううう。」

 現在、リクは部活もバイトも休んでいる。

 ……原因は勿論、体育祭で痛めた足である。
 無茶をしたツケとして、医者から安静を言い渡されている。

 通常なら、買い出し等の力仕事がリクの仕事なのだが、松葉杖を使っているためそれも出来ない。
「リク、一人でケーキ焼ける?」
「ワンピース縫えますか?」
「この二人の暴走、食い止められます?」
『無理でしょ?』

「………なんかすいません………」


 最終的に、訴えたはずのリクが頭を下げてこの日の五つ子協議は終わり、リクの雑用生活は、文化祭が終わるまで続くのであった。合掌。

 了


BACK