おまけ。

『女装コン!?』
 カナタを除く四人が一斉に声を上げる。
「そう!優勝したクラスは追加でポイント加算よ!」

 この学校の文化祭は、何故か競争要素が強い。
 各団体の出し物は、展示、舞台、飲食・販売の三つに大きく分けられ、一般客からの投票でそれぞれに優秀賞が決まる。
 更に、各部門の優秀賞三団体の中から、総合優秀賞がひとつだけ選ばれる。

「総合優勝」と呼ばれるソレには、学食の食券が副賞としてついてくるのだ。


 食券。それはごはんと交換が出来る魔法の紙である。

「総合優勝を狙うのであれば、それはちょっと落とせませんね……!」
「ポイントはあればあるだけ有利になるもんね!」

 食券に目がくらんでいるレンとハズミは、完全に勝ちにいくつもりである。

「でね、優勝狙うには出来るだけ可愛い男子を選ばないといけないわけ」
「というわけで五つ子の誰か、代表になってね?」

 実行委員の少女達は、ね?とかわいらしく声を揃える。

 五つ子は皆、どちらかといえば柔らかい面差しをしている。このクラスの中では確かに「向き」だろう。

「おっけー、まっかして!」
「必ず優勝してみせますよ!!」
『リクが!!』
「…………えぇえええ〜!?」

 不満げなリクをよそに、ハズミとレンはムダにやる気(というかやらせる気)である。

「ま、待ってよ!女装なら小柄なカナタの方が……」
「カナタ君は衣装作ってくれるって!」
「衣装作りと引き換えに女装免除なんですよ、僕」
 カイルさん招待するのにそんなことしてられません、と、カナタは肩をすくめる。
「僕とハズミは、多分当日も忙しいと思いますし」
「女装コン獲って、総合優勝も獲るかんね!!リク、今日からパックして寝なさい!」
「サービスで衣装は選ばせてあげますよ。なにがいいですか?」
「体の線を出さないよう、和服がいいんじゃないですか?」
「ダメ!リク君結構肩幅あるから!」
「女装の定番はセーラー服かナースかチャイナですよねー」
 当人をおいてけぼりに、兄弟達はすっかりその気である。

「助けてアオイ兄〜……」
 涙に暮れながら、二度と怪我した足で走らないと心に誓うリクだった。



 おまけその2

「……クッキーアソート保留、カスタードプリン数量限定で許可、シフォンケーキ三種(プレーン・紅茶・メイプル)許可、イチゴショート却下ベイクドチーズケーキ許可フルーツタルト却下、アップルパイ保留シュークリーム却下チョコレートケーキ却下……ちょっとハズミ、なんでチーズケーキ三種類もあるんですか、一つにしてください」
「なーんーで――!!」

 げんなりした顔のレンに、ハズミが力一杯不満げな声を上げる。
「いらないでしょう三種類も……一つだけなら許可してあげますから絞って下さい」
「やだー!全部作る――!!」
「ダダこねるんじゃありません。ハズミだけのメニュー設定じゃないんですから」
「ショートケーキもダメシュークリームもダメタルトもダメ!なんならいいのさー!」

 メニューの考案はハズミ率いる調理チームの仕事だが、これを決定する権限をもつのは統括のレンである。

「言ったでしょう?『初心者でも作りやすい』『一日二日日持ちのする』メニューでないとダメだって」
「作れるもん!僕全部作るもん!!」
「ハズミは一人しか居ませんし、オーブンも一台しか取れてません。……このアップルパイ、その分じゃパイ生地から作る気でしょう。却下」
 ノートの切れっ端に書かれた『アップルパイ』の文字の頭に、レンは赤いペンで×をつける。
「うわぁぁん!レンのばかあぁぁ!!」
「バカというならハズミがバカでしょう、もう少し考えてメニュー作って下さい」
「だって!綺麗なケーキいっぱいあった方がお客さん来ると思ったんだもん!シフォンとかパウンドとかだけじゃ地味だと思ったんだもん!」
「ああそれですよ。ドライフルーツたっぷりのパウンドケーキ。メニューに入れましょう」
「もー!じゃあレンがメニュー作ったらいいじゃない〜っ!」



「ねえ、あんた達ン所の、バカップルのケンカみたくなってるけど大丈夫…?」
 少し離れて二人の様子をみていたクラスメイトが、リクの肩をつつく。
「え?ああ、あれ?大丈夫大丈夫、いつもの事だから〜」
「!?いつも!?」
「え?うん、いつも。」
「ハズミさんは勝手に料理とかお菓子とか、作れないんですよ」
 採寸中のリク(測られる方)とカナタ(測る方)がさらりと答える。

「何その、亭主関白ならぬ三男関白!?」
「あ、作れないのは「新しいメニュー」ね。一回作ったことあるのはいいんだよ」
「ハズミさん、レシピに関しては見境ないんで、高級食材とか使ってても平気で持ってくるんですよ」
「だから、必ずレンがチェックして、OKが出れば作れるんだよ」
「自腹で材料揃えれば、何にも言われないんですけどね〜」
 いつもの事、と採寸を再開した二人に、クラスメイトの目は据わる。
「……なんかバカップルというより親子ね……」
「まあ言ってやらんで下さい。我が家の食卓はあの二人に支えられてるんですから」
「あの二人……その主婦臭さがなければもう少しモテると思うのに」
「あ、レンさんとアオイさんの差はそこですか」


「だから、チーズケーキは一種類だけですってば!」
「やだ!最低でもベイクドとレアは作る!」
「クリームチーズいくらすると思ってるんですか!ダメです一種類だけ!」
「やだやだやだ!作るったら作る――!!」


 メニュー決定まで暫く、この光景はちょくちょく見られたという。
 



「ところでレン、今日の晩飯どうしよう?」
「かぼちゃ残ってたでしょう。あれを煮て……後は買い物行ってですね」
「そだね。リク、カナター!僕ら晩飯あるから、先帰るよー?」


「……ちょっと、もう仲直りしてるよ!?」
 仲良く連れだって教室を出ていく二人に、クラスメイト達は唖然とする。
「別にあれ、ケンカしてたわけじゃないもん。文化祭と今日の晩御飯は別問題」
「そもそもあの二人、なんだかんだで仲良いですから」

「底が知れないねデュナンブラザーズ……」

 

 了


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