「ちょっと!ハズミハズミ!!」
「はいはい何、今ちょっと大事なとこなんだけど…」

「ユーリグさんが、一緒にクリスマスパーティーやりましょうって!」
「えぇぇッ!?」

 ぶし。

「あ。」
 レンからの衝撃的な報告に、ハズミは思わず生クリームの絞り器をスポンジにぶっ刺してしまった。


 ケーキの傷を上手いことクリームと飾りのフルーツで隠し、最後に刻みチョコを振りかける。
「ハズミ、チョコそんなに振るんですか?」
「へ?ああ、ちょっと刻みすぎちゃって。残してもしょうがないし」
「…………」
わたわたとするハズミに、レンの視線も刺さる。
「……ま、いいけど……さ、ケーキ出来たならオーブン貸してください」

「それではー!うれしはずかし☆両家合同クリスマスパーティー開始ですよー!乾杯ー!」
 サイダーの入ったグラスを掲げ、カナタが声高に宣言する。
 昼間、呪咀を吐きながら家を飛び出して行ったカナタとは、完全に別人である。

「……いやあの……すみません、なんか一人ダウト居ませんか」
 持参したケーキを切り分けながら、ハズミが呟く。
 その視線は、向かい側に座るユウとクラハの間で止まっている。
「えー?なになに、何がダウトー?」
「あんただよあんた!こンのしっぽ頭、わかってて言ってんだろ!!」

 ……いつもならばユウとクラハの間には、ルレンがちょこんと座っているはずだ。
 が、今日そこに涼しい顔で座っているのは、マクドール兄弟の従兄弟、ロウウであった。
「…………ルレン兄さんは」
 その二つ隣の席で、ハズミ同様ケーキを切り分けるユーリグの表情も暗い。
「……お仕事……そう、お仕事なんです……し、仕方ないんです……」
「…………あ。」

 クリスマスといえばクリスマスライブである。
 確かに、バンドのHPにもライブの告知が出ていた。

(……頑張ってチョコ削るんじゃなかったな〜……)消沈した気分では、自分で作ったケーキは尚味気ない。
 ならせめて人の作ったケーキを食べようと視線を上げた所で、正面に座るユーリグと目があった。


「ユーリグさんだからブッシュドノエルなのかと思ってました」
「ハズミ君は予想通りショートケーキでしたね」
 ユーリグ手製のチョコケーキを頬張りながら、ハズミがぽそっと呟く。
「どうせルレン兄さんに食べてもらえないなら、ビターにしてしまおうかと思いまして。……あ、勿論ルレン兄さんの分は別に作るんですけど」
「……これから作るんですか?」
「ええ、ここが一段落ついたら」
「……それ、僕にも手伝わせて頂けませんか?」
 思い切ってハズミが言うと、途端にユーリグの眼光が険しくなる。
「…………作ってる間には、帰ってきませんよ?」
「勿論、わかってます」
 即答したハズミに、ユーリグは諦めたかのように肩から力を抜く。
「………仕方ないですね。ちょっとだけですよ?」
「ありがとうございますっ」
 小さく笑ったユーリグに、ハズミは深く頭を下げた。
「じゃあ、少し待ってて下さいね。君のとこの末っ子とうちの従兄弟、しばいてきますから」
「お、お願いします……!」
 ユーリグが席を外している間、ハズミは料理を堪能することにする。
 あわよくば、後でレシピを聞き出そうと言う魂胆だ。

 隣では、黙々と料理を平らげていくクラハと、それを何故か温かく見守るアオイ。
 反対側では、ヒロとナナトが他愛のない話で笑いあっている。
 リビングでは、カイルにせまろうとしたカナタと、それをたきつけたロウウがユーリグにしばかれ、ソファではユウとユイが、なにやら語らっている。
 気が付けば、レンとケイはいつの間にか姿を消していた。

「……ちぇ。皆いいな〜楽しそうで……」
「まったくだよね〜え?」
「ぅぎょわッ!?」
 突然何かにのしかかられ、ハズミが奇妙な悲鳴を上げた。
「つーかハズミが一番うらやましいよ……ユーリグさんとあんなナチュラルに会話出来て、一緒にケーキ作る約束なんかして……!」
「り、リク……お前ずっと聞いてたん!?」
「聞いてたんってアナタ、僕隣にいたんだもん!いつユーリグさんに話かけようかってタイミング計ってたんだよ!そしたらなんかハズミがサラッと……!」
「違うよ、ユーリグさんから声掛けてくれたんだよ」
「なんですかそれ自慢ですかハズミさん本命不在だからって浮気ですか」
「う、浮気ってなんだよ!ただ僕は手伝わせて下さいって頼んだだけじゃん!」
「ふーんへーえほーう?」
「……ユーリグさぁん!リクが」

 びゅごっ、がぃん!!

 ハズミの言葉が終わる前に、飛来したガラスの灰皿はリクの顔面に綺麗にヒットした。

「……容赦も躊躇も一切ないな……」
 昏倒したリクを見下ろし、ハズミが小さく肩を震わせる。
「ハズミ君♪お待たせしました、ケーキはじめましょう?」
 灰皿を投げた当人は、必要以上に笑顔を浮かべ、ハズミにエプロンを差し出すのだった。
「……名前出しただけで灰皿攻撃されるなんて……どんだけ警戒されてんだよ、リク」
「うーんうーん、ハズミのムッツリ〜……」

 

††

「ユーリグ、昨日は一緒にクリスマス出来なくてごめんね?怒ってる?」

 翌日。
 明け方近くに帰宅したはずのルレンは、マクドール家の早い朝食の時間に、まだ起きて居間にいた。
「そんな、怒ってなんていませんよ。ちょっと、残念だっただけで」
「ほんと?……じゃあ、これ。1日遅くなっちゃったけど」
「……え?」
 ルレンが照れ臭そうに差し出したのは、小さな包みだった。
「いい子には、プレゼントをあげないとね?」
 きょとんとするユーリグの黒髪を、ルレンがよしよしと撫でる。
「あ……っ、ありがとうございます……!あ、あ、あの、僕兄さんに食べて欲しくて…その、ケーキを、作って……!」
「え、ケーキ、僕の分あるの?……嬉しいな、食べられないと思っていたのに」
「今から、召し上がりますか?」
「今から食べていいの!?うわぁ、朝ごはんにケーキなんて贅沢だぁ!」
 子供のように手をたたいて喜ぶルレンに、用意をしてくると言い置いて、ユーリグはダイニングへと引っ込む。
 流しの前で先程受け取った包みをそっとほどくと、中からは美しい濃紺のネクタイと、銀のタイピンが出てくる。

「――――っ♪」
 中身を改めたユーリグは、タイとタイピンを包みに戻してから、それをぎゅうと抱きしめる。
 緩んでしまう口許をそのままに、夕べハズミと作ったブッシュドノエルを切り分けにかかる。

 丁度その頃、ランニングから帰ったケイと、起き出したカイルがリビングにやって来たようだった。
「わ〜なんだろ…あ、タオルと……こっちはストラップ?」
「……ハンカチと、時計ですね……綺麗な色……」
「気に入らなかったらごめんね、一生懸命選んだつもりなんだけど……」
 兄弟達も、それぞれプレゼントをもらったらしい。
 うんうんと頷きながら、ユーリグは一緒にココアの用事もはじめる。
 すると、リビングでケイが不思議そうに声をあげるのが聞こえた。
「あれー、こんなに沢山誰にあげるの?」
「あ、こっちはお隣の子達に。何あげていいか分からないから、皆一緒にしちゃったんだけど……」
「え、皆にあげるんですか!?用意するの大変だったんじゃないんですか!?」
「けど、一人だけってわけにもいかないでしょう?」
 カイルの問いに、困ったように微笑むルレン。
 その反応に顔を見合わせたケイとカイルが声を揃えた。
『一人だけって……誰に?』
「………あ」
 途端、ルレンの顔がぱっと赤らむ。
「ああ、ええと、カナタが無理にせがんだとかじゃありませんよね?もしそうなら、僕から言って聞かせますから……」
「あー!ユイ君じゃないの!?ユウだけじゃなくて、ルレンにまでちょっかいだしてるとか!?」
(……それ、間違いなくハズミ君じゃないですか……!)
 ただ一人、明確に読み取ったユーリグはダイニングテーブルに突っ伏してうち震える。
「……と、とにかく皆にあげるの!同じものあげるの!……何時に行ったら失礼じゃないかなあ?」

 赤い顔でまくしたてるルレンをダイニングから眺めながら、いっそ今から行って全員寝てる間に枕元に置いてきてほしいと思ってしまう、マクドール家四男であった。

†††

「あれっ、ルレンさん!」

 それから数時間後。
 ルレンはプレゼントの包みを抱えてデュナン家を訪ねていた。
「おはようリク。はい、1日遅れちゃったけど、メリークリスマス」
「えっ!?……僕達全員にですか!?……うわぁ嬉しいです!!ありがとうございます!!」
 手渡された紙袋を覗きこんだリクが感嘆の声をあげる。
「ごめんね、誰に何がいいとかわからなかったから、みんな同じものなんだ」
「その方がケンカにならなくていいです!……あ、ストラップだ!」
 早速、リクが包みを一つあけると、中からは翡翠の飾りのついた皮紐製のストラップが出てくる。
 ――余談だが、ケイのストラップは金属のプレートとチェーンで出来たものなので、お揃いという趣きはない。
「綺麗な石ですねー!なんだか美味しそう!」
「食べられないよ?美味しそうだけど」
 リクの正直な反応に、ルレンはくすくす笑う。
「ちょっとリクー!いつまで玄関でダベって……」
 その時、いつまでたっても戻ってこないリクをいぶかしんだハズミが台所からでてきた。
「あ……」
「ハズミー!見てみて、クリスマスプレゼントもらっちゃった!」
 ハズミの姿を見止めたルレンは思わずリクの後ろに隠れてしまう。
「プレゼント……ああ、そう、よかったね!すみません、わざわざ渡しに?」
「み、皆の分もあるよ?みんなお揃いだから」
 言うと、ルレンはリクに渡した紙袋から、包みをひとつ取り出してハズミに差し出す。
「あっ、ありがとうございます…!あ、そだ、お茶いれます!お時間あるならあがってって下さい!!」
「……邪魔にならないかな?」
「アオイちゃんはバイト行っちゃいましたし、……後は全員寝てますから」
「ねー」
 何やら顔を見合わせる二人に、ルレンはそれじゃ、と頷いた。

 

「それでね、ユーリグが怒っちゃってね?」
「ああ、なんだか想像できますねーそれ!」
 こたつに入ったリクとルレンは、ユーリグの話で大盛り上がりしていた。
(……しまった……)
 台所で、ハズミは内心頭を抱える。
 ハズミがお茶をいれている間に、リクがすっかり二人だけの空気を作ってしまったのである。本人無自覚な分質が悪い。
「あ、ルレンさん、お腹すいてませんか?ハズミー、なにかおやつ……」
「あっ、ううんいいよ!さっき家でケーキ食べたばっかりなんだ」
「ケーキって…あの丸太ケーキですか?」
「知ってるの?…ああそっか、昨日食べてるんだよね。うん、ユーリグがとっといてくれて…」
「違いますよ、あれはルレンさん専用にって、昨日作ってたんですよ」
「えっ……そうなの!?」
「そう言ってましたから。間違いないと思いますよ?」
「……ユーリグ……」
 意外な事実に、ルレンの瞳がうるうるとうるむ。
「す、す、すごくね?美味しかったんだよ?形もすごく綺麗で、売り物より綺麗で美味しいんだよ?」
「そうですよねえ、ユーリグさん特製ですもんねえ。いいなあルレンさん」
「えへ、えへへ、いいでしょ」
 ……意趣返しのつもりか、リクの口から「ハズミも手伝っていた」の一言はでない。

(ユーリグさん、途中でカナタ達シバきに行ってたから、半分位は僕が作ってるんだけどな〜…)
 台所でハズミはうなだれるが、流石に自分の口からは言えない。

(ああもう、ユーリグさんに全部持ってかれた〜…)
 紅茶に砂糖をがばがば入れながら、ハズミは敗北感にうちひしがれるのだった。

++了++


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