**リレー企画03**

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「ちょ、ちょっとロウ……手、緩めて……け、ケーキ落ちちゃう……!」
「そうやって一生懸命皿を抱える姿もそそるねェ♪……っていたたたた」
「あーたそーやって見境なく抱きつくのやめろよ!ルレンさん困ってんだろ!?」
 ケーキの皿を引っくり返すまいと懸命にバランスを取るルレンと、そのルレンに無遠慮に抱きつくロウウ。
 それを見かねて、ハズミはロウウの手の甲をつねりあげた。
「なんだい、チャチャいれるんじゃないよおサル。僕がこの子に何しようが、お前さんにゃ関係ないだろう?」
「――ロウ?」
 いつもとは異なるトーン(聞いてそうと分かるのはユウと双子くらいだろうが)で喋るロウウに、ルレンが瞳を瞬かせる。
(しっ。…少しだけ黙っててくれ)
 ロウウが、ルレンの耳の後ろで小さく囁く。
「そっ、そりゃ僕には関係ないかもしれないけどさ!ルレンさんが迷惑してるかもしれないだろ!?
ルレンさん、優しいから嫌だって言えないかもしんないじゃん!!」
「それは『かもしれない』。仮定の話だろう?ルレンが表情に出したか?体がこわばってるか?何も言わないのは、別に文句がないからなんじゃないのか?」
「……ッ!」
 至極冷静に切り返され、ハズミは思わず言葉に詰まる。
「……言いたくてもいえない事ってあるだろ。特にルレンさんは周りに気を使う人だし……」
「ほぅ?お前さんがこの子の何を知ってるって?……この子がココに越して来てたかだか数ヶ月。
だが僕は、この子が生まれた時から見てきている」
「…長さだけの問題じゃないだろ」
「だが、無関係でもないだろう?」

 二人の間に、険悪な空気が満ちる。
……挟まれる形になってしまったルレンは、ロウウに抱きかかえられたままおろおろと視線をさ迷わせている。

「……とにかく、手ェ緩めろって言ってんだから緩めろよ」
「えー?僕の仔猫ちゃんはぎゅーされるの好きでしょー?」
「だから!その人を所有物みたいにいうのやめろ!!」

 ハズミの語気が荒くなる。
 ルレンは驚いて、肩をびくりと震わせるが、ロウウはぴくりとも動かない。
「……この子の事は、他の誰より見てきている。それこそ、この子の親父さんより、ね。……少なくとも、
お前さんなんぞよりは近しい関係であることは確かだ」

 ルレンの肩越しに、ロウウは淡々と言い放つ。
「…………」
 そこまで言われてしまうと、ハズミは反論出来なくなってしまう。

……頃合い、と見たロウウが、不意にルレンから体を離した。
「――そういえばルレン?このおサルに何の用だ?隣とはいえ、二人きりで会うなんてあぶないだろう?」
「え?……あ、ああ……あのね、ハズミの体育祭の事で……」
「体育祭!体育祭ねぇ……おサルさん、お前さんは何に出るんだ?」
「…………」
「……ハズミ、何に出るの?」
「……100メートル走、です……」
 ロウウ相手ならシカトをきめこむ事も出来るが、ルレンではそういうわけにもいかない。
 ハズミはロウウを横目で睨みながらしぶしぶ答える。
「はっはっは、その短い足じゃ走るのも大変だろう!まあせいぜい頑張りたまえ」
「……お生憎様、こちとら走るのぁ大の得意でね」
 高笑いするロウウに、反撃の機会を窺っていたハズミが、歯をむいてみせる。
「得意ったって、お前さん帰宅部だろう?運動部の連中にはかなわんだろうさ」
「さーね。どーだかね」
「そんなに言うなら証明してご覧。……そうだな、じゃあその100M走で一位になったら、お前さんを認めよう。
なんでも言うこと聞いてやるぞ?」
「……一位になれなかったら?」
「僕の言うことを聞いてもらう。……お前さんの努力次第でどうとでもなる、分のいい賭けだろう?」
「よしわかった!じゃあ僕が勝ったら、ルレンさんに無用のちょっかいかけるのをやめてもらう!いいな!?」
「いいだろう!勝てたらな?」
「――ルレンさん、ケーキの感想、ユーリグさんにも聞いてみて頂けますか?……じゃっ」

「えっ、あ……ハズミ……」
 最後にルレンにぺこっと頭を下げ、ハズミは自宅へととって返す。
……追いすがろうとしたルレンを、ロウウが引き止めた。

「――ロウ。どういうつもりなの?」

 マクドール家・居間。
 ローテーブルには切り分けられたケーキと、人数分のティーカップが用意されていた。

「ん?何かな?」
「とぼけないで。どうしてハズミにあんな事言ったの?」
 普段、ロウウが何をしても嫌な顔はしないルレンが珍しく神妙な表情をしている。
 そんな従兄弟の様子に、ロウウは小さく苦笑いを浮かべた。
「あ、あれ?いや、あっちの四男坊を本気にさせるのが目的。他意はないよ?」
「本気?」
「うん。体育祭で」
「ハズミはそういうの、手を抜いたりしない子だと思うけど……」
「手を抜かないのと本気になるのは、ちょっと違うだろ?」
「……そうだけど」
「体育祭が終わったら、ちゃんと謝りに行くからさ。それまで黙ってておくれ?な?」
「……うん……」
 ぽすん、と、その黒髪に手を置かれると、ルレンはこくんと頷いた。

「でも、理由はどうあれ、ルレン兄さんを困らせてるのは確かですよね?」
「えッ」

 突然、ロウウの首もとにかかる指。
 今まで、そこで紅茶をいれていたユーリグが、いつの間にか二人の間に割って入っていた。
「兄さん、カイルさん。紅茶がはいりましたので、先に召し上がってて下さいな。……僕はちょっと、ロウさんとお話がありますので」
「……あれッ、ユーリグちゃんもしかして本気で怒ってる?」
「さー、あちらでじっっくりお話しましょうね?」
 ユーリグの迫力に押され、ルレンとカイルは、ただただ部屋から引きずりだされるロウウを見送るしかない。

(……こんな事なら、さっき出ていくのを見つけた時に止めるかどうかすればよかったんでしょうか……)
 紅茶のカップに目線を落としたカイルは、こっそりとため息をついた。

「……あれっ、ハズミどこいくの?こんな時間に」
「あー……ちょっと走りに」
「えっ!?」

 夕飯の後。
 風呂から上がったリクは、玄関でジャージ姿のハズミに出くわした。
「やー……体育祭も、やっぱやる以上は全力でやらないとな〜っつー……心変わり?」
「…………いやっ!偉いよ、立派な心変わりだよハズミ!」
「そう?……じゃ、ちょっと行って来る」
「行ってらっしゃ〜い!気をつけてね〜!」

 ぱたむ。

 ハズミが後ろ手にドアを閉めるまで見送ったリクは、くるりと踵を返す。
「……ナナト!ナナト〜!」
 ハズミの「心変わり」を報告すべく、リクは階段を駆け上がって行くのだった。

 

「…つー訳で、何故だか知らんが特に台所2人がやけに張り切っててさ。2人を筆頭に2チームに別れて走りこみや何だのって、まあ家の中は騒がしくてなー」
「いいじゃないか、賑やかで」

 デュナン家兄弟の中で一人違う高校に通っているユイは、時間が合ったらと引き受けている絵のモデルを終えユウと並んで帰宅の途についていた。話題は専ら目前に迫った他兄弟の学校の体育祭だ。その体育祭まで残すところあと三日。盛り上がりに欠けていた白組陣営はハズミがやる気を出した事で勢いを盛り返し、紅組陣営も静かな確かな熱を湛えたままでいる。

「ユイも同じ学校だったら一緒に盛り上がれたのではないか?」
「いや、一緒の学校だったとしてもあの盛り上がり方は異常じゃねぇか…?」
「それは…まあ、心当たりがない訳ではないが…」

 ロウウがルレンのライブチケットを餌にして盛り上がりを煽った事、そしてルレンを挟んでハズミとやりあった事は、当の本人の口から聞いているユウである。身内のやらかした事に申し訳ない気持ちがなかった訳でもないが、謝りはするから体育祭が終わるまではと口止めされている身としては何も言えなかった。

「………行くのか?」
「え?悪い、聞いていなかった。行くって何処へだ?」
「だから、あいつらの応援に…」

 自分を除く兄弟の応援に、とユイは言っている。予定を思い返してみれば、確かにその日は時間を作れば応援に行く事も可能ではある。ユウ以外の兄弟のほとんどは行く気でいるのだから、ユウも兄弟に倣って応援に行ったとしても決しておかしくはない。おかしくはないのだが。

「ユイはその日学校だったか?」
「あ、あぁ、平日だし普通に授業あるからな」
「なら放課後の予定は?」
「へ?」
「僕は応援には行かないから予定が空いているんだ。ユイは忙しいだろうか」

 あんな可愛い反応を見せられては、応えない訳にはいかないだろう。ユウはくすと笑みを浮かべてユイの顔を覗き込んだ。ユイは一瞬ひるんだものの、笑われるのも癪だという思いからユウの首に片腕を回し肩を組む要領で抱き寄せた。

「それって…誘われてる?」
「無論、誘っているつもりだが?」
「……本気でか」
「ちょうど皆留守になるのだと思えば、今度はしっかりと屋根裏まで案内してやれそうだからな」

 珍しく照れも入らずに微笑んでいるユウ。『誘う』の意味は相変わらず意図した答えとは違うものだったが、予想外の嬉しい提案にユイの心臓が跳ねた。抱き寄せているせいでいつもより顔が近く見えるからか、照れ隠しにと頭をわしゃわしゃと撫でる量も自然といつもより多くなるのも仕方のない事だろう。

「……髪がボサボサになったんだが」
「ユウのは手櫛で直るから良いだろ。誘ってくれんのは嬉しいんだけどさ、やっぱ他に誰もいないとこにってのは…」
「そうなのか……楽しみにしていたんだが…」

 ユイの返答に急に落ち込んで目を伏せるユウ。こうもあからさまに落胆されると、自分と同じ気持ちで好かれているのかと勘違いしそうになる。ユイは更にユウの髪をわしゃと撫でてから言葉を続けた。

「…マズいんじゃあとか思ったがやっぱり行く。ユウがもてなしてくれるんだよな」
「あぁ、今度はちゃんとおもてなしするんだからな。………ユイ」
「ん、何だ?」

 嬉しそうに微笑んで小指を差し出すユウに、ユイは慣れた様子で小指を絡めて指を切った。

 

数時間後のマクドール家、夕飯が終った後の団欒時。
「そういえばお隣の体育祭って、部外者でも応援に行けるんですか?」
今の世の中、どこの学校も警備の目的で関係者以外は大抵は出入り禁止のはずだったと思い出して、ユーリグはカイルに聞いてみた。
「なぜだか執行部からOKが出たとかで…父兄や一般の応援席が設置されるそうです。」
苦笑しながら答えるカイルを見ると、またカナタに応援をねだられたんだろうと予測がつく。
少し遠い目になりながらも、当初の目的を果たそうと奮い立った。
「……当日応援に行く方はどれだけいます?家の分のお弁当を用意しますから。」
その場にいる兄弟全員に確認をとる。

「僕は午後が休講だから行くつもり。お弁当作ってくれるならおやつにお饅頭もお願いして良いかな?」
レン君達に、お饅頭仲間として食べさせてあげたいんだーとケイ。
「僕も…その日は午後の講義がないので…。」
と、少し赤くなりながらカイル。
やはりカナタにお願いされていたのだろう…。後でカナタにまた少し釘を刺しておかなくちゃな…と決意する。
「残念だけど、平日だし僕も学校があるから…。」
実に残念そうにヒロが答えるのに、ヒロさんの分のお弁当もスペシャルなのを作りますね。とせめてもと慰める。
「僕も行く。…ううん、行かなくちゃ。クラハはどうするの?」
と、隣の片割れにルレンが問いかける。
「その日は食堂の仕事もモデルの仕事もないから行けるな。ユーリグのお弁当が食べられるならぜひ行かなくてはな。」
と、実にクラハらしい回答が返ってきた。

「僕は少し予定があるから、家で留守番をしているよ。」
「予定ですか?」
「あぁ、アトリエの方で少しやりたい事があってな。」
「…と、いう事は応援に行くのは4人ですね。ロウさんも行くんですか?」
「えと、多分行くと思う。ハズミと約束していたし。……ユーリグは行かないの?」
4人という言葉に不思議に思ったのか、ルレンが訊ね返してきた。
「僕も残念ながら、その日は午後から絶対に外せない実習講義があるんです。」
講義で作ったお菓子はお土産に持って帰りますね。と兄弟達に約束をして重箱を探す為に地下の納戸へと降りていった。クラハが行くとなると、お弁当は少なくとも10人前くらいは用意しなくてはいけないだろう。
「お饅頭を作るのも約束しましたし、仕込みは明日から始めた方が良さそうですね。」
当日の兄弟の喜ぶ顔を思うと、自然と顔が綻ぶ。
自分が一緒に行けない事に対する心配はあるが、ロウウが一緒ならその心配は少し薄らぐ。
彼は自分達兄弟に他人が害を成すのをよしとはしない。その辺は信頼している。
ロウウ自身にからかわれる心配は大いにあるが。

気になる事と言ったら、先程ユウが言っていた当日の用事だろう。
何か嫌な予感がする。ユーリグはこういった時の自分の勘を極力信じる事にしている。
急ぎの課題が出たという話も聞いていないし、仲良くしているお隣の子達の応援に行けない理由はないはずなのだ。
『…来客…とか?ロウさんはルレン兄さん達と一緒に出かけるはずだから、テッドさんとか?』
…ふと、6月に1人で遊びに来ていた、隣の次男の顔が思い浮かぶ。
「まさか…ね。」
しかし、ユウが友人としてもモデルとしても隣の彼を気に入っているのは事実だ。

どうしても気になって、思わず隣のレンに当日のユイの動向を探るメールを送ってしまっていた。


『レン君へ

突然すみません。
そちらの体育祭当日はそちらのご兄弟は全員会場にいらっしゃいますか?
うちの兄弟のお弁当と一緒に、そちらの分も余分に作ろうと思いますので良ければ教えて下さい。
当日は頑張って下さいね。

ユーリグ』


当たり障りのない感じに、それとなく聞き出すつもりの内容だから思惑はばれないと思いたい。
「これで良し…と。もしも体育祭に不参加だったら、念の為当日はテッドさんかグレミオをお呼びしましょう…。」


手元の携帯を上着のポケットに戻して、再び重箱探しに没頭する。
「確か5段重ねの重箱が2個ほどあったはず…。」
引っ越してきてからそんなに日数は経っていないはずなのに、なかなかみつからない。
思っていたよりも物が増えてきていたようだ。
ユーリグの探し物はカイルが手伝いに来てくれるまで続いた。

 

雲一つない青空の下、各国の小さな国旗が連なった旗がたなびく。
本日、体育祭当日である。

「あっという間に当日でしたね〜外来者も多数の中☆僕のすれ違い通信が唸りますよ!!」
「カナタ…?」
「わ、分かってますよ〜;だから、暇な時間でエンドレス錬金☆ゴール●メイルで金儲けに走ってないじゃないですか〜;」

同じ色のハチマキをつけたレンとカナタが、そんな会話を交わす中、体育祭実行委員らは忙しそうに走り回っている。
………今年は、例年以上に忙しいらしい。(原因は言わずもがなだ…)

(コレ本気でやる気ですね〜;わかってましたけど〜;)

元々集団行動にノリ気でないカナタは、この手の行事にやる気は出ない。(その証拠にまだ始まっていないからという理由で、長袖の体操着(上)を着ている。)
しかし、それでもカイルが応援に来てくれるということで、最低限のモチベーションは保たれていた。
自分の出番には多少はやる気を見せることだろう。

「そろそろ開会式だから、上着は脱いでおいてくださいね。」
「はい;」

レンの言葉にカナタは素直に頷き、入場ゲートへ向かう。
普段はクラス別に並ぶものの、今日は紅白に分かれての整列だ。
入場行進やら、全員整列やら御定まりの団体行動を取らされるのは、不満だけれどもレンがいるのでサボることも出来ない。

「ハズミさん!リクさーん!今日は負けませんよー!!」
「カナタちゃんと並びなよー!?」
「意図的に名前飛ばさないで〜!!;」

無駄に挑発行為を行いつつ、校長やらなんやらの長い開会宣言を乗り切る。(大半の生徒らも同じように、選手宣誓はまだか〜とぼ〜っとしていたりする。)
勿論、宣誓はお約束かつ大変短いアレだ。
生徒が2人(男女の代表だ)が緊張しつつ、紙を片手に手を挙げ、マイクに向けて宣誓をする。

「「―――宣誓!僕達「私達」は、日頃の練習の成果を発揮し!戦い抜くことを誓います!!」」

……………。


(((((正々堂々が抜けてる…)))))×全校生徒


「なんで僕を見るんですか〜?」
「確実にカナタがなんかやったんでしょ!?」
「え?気のせいじゃないですか?」



なんだかんだで怒涛の開会式は終わった。
しかしその後、全体で行うラジオ体操があったりしたものの、第二体操の時点でカナタが逃げ出そうとした騒ぎもあった。

「カイルさんのご家族の前でッ!マッチョポーズは出来ませんッ!!写真撮られちゃったらどうするんですかーッ!!?せめて僕が真のマッチョになってからーーーッ!!!!(怒泣)」
「僕だって恥ずかしいんだからちゃんとやろうよッ!しかもユーリグさん来てないしーー!!(泣)」
「2人とも列を乱してんじゃないよッ!!」


〜応援者席〜

「揉めてるね…」
「そうだな」

思春期に第二体操は恥ずかしい…そんな甘酸っぱい思い出の一つである。

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