**リレー企画04**

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 お約束のセレモニーの後、競技はつつがなく進行していった。

「ハズミ、いきなり出番だね〜!」
「いきなりというか……プログラム通りだけど」
 お祭りムードに若干テンションの上がったナナトがハズミの肩をたたくが、ハズミからは必要以上に冷静なリアクションが返ってくる。
「……と、とにかく、頑張ってね!ハズミ!!」
「頑張ってないように見える?」
「……うわぁんっ!リクー、リク――!ハズミが意地悪だよー!」
「あ〜、よしよし…ハズミも、競技前で気が立つのはわからないでもないけど…」
 泣き付く弟をよしよしとなだめ、リクが軽く嘆息する。
「逆。集中したいだけ」
 言葉は返ってくるものの、ハズミの目線は弟達ではなく、もっと遠くを見つめていた。
(……部活中のハズミって、こんなんだったのかなぁ……)

『それでは、只今より男子100M走予選を行います……』
 グラウンド内に、放送部員のアナウンスが響き渡る。

「あっ、レンさん、出番ですねー!」
「うん……ちょっと緊張しますね、なんだか」
「なに言ってるんですか、相手はあのヘタレハズミさんですよ?よゆーですって☆」
「余裕はないけど……全力でやってきます」
「決勝に残らないと、ハズミさんと戦えないかも知れませんからね!まず2位以内ですよ!」
「うん、ありがとう。じゃあ、行って来る」
「レンさ〜ん、ファイトファイトですよ〜☆」
 トラックへと向かうレンの背中に向けて、カナタがぱたぱたと手を振る。

「……ここでレンさんに頑張って頂ければ、それだけ僕は楽出来ますしね♪
……あっ、すれ違い通信が三人たまってます!」
 ぼそっと呟くと、隠し持っていた携帯ゲーム機を確認しながら、スタンド(一般客席)へと向かうカナタであった。



「わー…ハズミ一等賞だ」
「流石だな」
 予選の様子を見ていたルレンとクラハが、思わず声を上げた。
 眼下のトラックでは、丁度ハズミが二位以下をぶっちぎってゴールしている。
「午前の予選で、各レースの上位2人が、午後の準決勝にすすめるんですよ」
「そうなんだ……でもカナタ、こんなところにいていいの?」
 頷きながらも、ルレンは当たり前のように自分の隣に座るカナタを不思議そうに見つめる。
「だって〜、いつカイルさんが来るかわからないじゃないですか!それまで席を暖めておきませんと!」
「ルレンの隣は僕の指定席なんだ。返してくれないか?」
 と、そこへ声と共に、カナタの背をロウウの指が一本、つつつと撫で下ろしていく。
「みぎゃあああ!セクハラです!セクハラされましたー!」
「失礼な!僕にだって選ぶ権利があるぞ!?」
「………なんの権利?」
 ずれる論点に、思わずルレンが首を傾げた。

「三人とも、レンが走るようだぞ」
「ああ、ケイが仕込んだんだったな。どうだ?レンとハズミ、どっちが勝つと思う?」
 ロウウが振ると、クラハはふむ、と唸った。
「さて、どうだろうな。……まあ、注目すべき対決にはなるだろう」
「ルレンはどうだ?」
「え…っ……と……どうかな、どっちが速いかな……」
 トラックを見下ろし、ルレンは頬を僅かに紅潮させる。
「それじゃあ、レンさんとハズミさん、どっちに勝って欲しいですか〜?」
 それを見たカナタが、ルレンの隣をキープしたまま尋ねた。
「ええ、あ……ハ……り、両方……」
「……そぉですか〜★」
 ルレンの言葉に、カナタはに〜、と笑って頷いた。

 

 午後の準決勝に進めるのは上位二着まで。そしてハズミは一着を取った。そのハズミと対等に戦いたいと言っているのだ、二着に甘んじてはいられない。予選くらい一着で抜けるようでなければ駄目なのだ。

「位置について」

 最初はただハズミに対する対抗意識だけだった。ケイさんに認められているハズミが羨ましかった。そのハズミに勝って、僕自身を認められたいと思った。でも今は違う。

「ようい――」

 そんな事は些末な問題。勝ちたいと思った僕に手を貸してくれた。夕方のランニングに付き合ってくれただけでなく、フォームのチェックや細かいアドバイスまでしてくれた。その恩に報いるためにも。そして何より――

『明日、決勝で2人が走るの楽しみにしてるんだから。それまでに負けないようにね』

 ケイさんに見てもらう前に脱落なんかしていられない。スタートを告げるピストルの音が鳴り響き、レンは足を踏み出した。



「レンも一等か」
「2人ともまずは準決勝進出だね」
「それじゃあ僕はそろそろ戻りますね〜。本当はずっとここでカイルさんの到着を待ちたいんですけど、さすがに出番サボったらレンさんに何されるか分かりませんしね…」

 レンの試合結果を確認してから、カナタはしぶしぶと腰を上げた。

「次はカナタの出番?何に出るの?」
「僕はこれからハードルですよ、距離の短さで選びました!応援宜しくお願いしますね〜」

 カナタがスタンドから紅組陣営へと戻ると、100メートル走予選を終えたレンは既に戻ってきているようだった。クラスメイトに何か話しかけている。レンに話しかけられた方は笑ってレンの肩を叩いている。それから上機嫌な様子で去っていったところを見計らい、レンに声を掛けた。

「レンさん、準決勝進出おめでとうですよ」
「ありがとう、カナタ。次はカナタの出番でしたよね。頑張ってきてくださいね、小さな勝利の積み重ねがチームの勝利に繋がるんですから」

 レンにとって、ハズミとの対決を予定しているのは100メートル走だが、当然体育祭の競技はそれだけではない。個人のタイムに基づいて参加種目を決定した白組とは違い、紅組は得意不得意、敵方チームの選手との相性に至るまで様々な情報を総合して参加種目を決定している。それも全てカナタの情報収集能力と、それを扱うレンの手腕があってこそだ。

「情報って、本当に大事ですよね……さて、全力で勝ちにいきましょうか」

 見た目だけは爽やかに微笑む兄の声援(?)を受けて、兄弟が対戦相手にいない競技は気が楽だと思いながら集合場所へと向かうカナタであった。

 

「今のところ、紅組と白組のどちらが勝っているの?」
応援者席で競技を眺めながら、得点板を確認しているロウウに訊ねてみた。
「紅が若干リードしているが、結構良い勝負なんじゃないかねぇ?」
「そうなんだ?」
眼下ではハードルを難なく跳び進み、カナタが1位でゴールしたところだった。
「カナタも1着か…隣は全員運動神経が良いとは聞いていたが…。」
クラハが感心しながら呟いていた。




カナタのゴールの様子を白組陣営から眺めていたリクとナナトは、また開いた得点差にアイコンタクトで頑張ろうと誓いあっていた。
「そろそろ出番だよね?」
「うん。400メートルだから、そろそろ集合場所に行かなくちゃだね。」
「午前中はあと何に出るんだった?」
「二人三脚と借り物競争。ナナトは?」
「二人三脚は一緒だから、あと1000メートルかな?」
大分ハードなスケジュールにげっそりしながら、集合場所へと急ぐと途中で戻ってくるカナタに出会った。
「カナタ、お疲れ〜。今回は随分とやる気なんだね。」
「カイルさんに無様な結果は報告できませんからね!」
(レンさんも怖いですし…)幸い口の中だけで呟いた言葉はリクには届かなかったようだ。
「ま、お互いに頑張ろうね。」
「あ、そうそう!さっき応援者席で聞いたんですけど、マクドールさん家のお弁当…ユーリグさんは僕たちの分も用意してくれたみたいですよー?」
「本当!?」
ユーリグさんのお弁当〜〜〜♪と浮かれ気分で集合場所に向ったリクを見送りながら、内心は…
「浮かれ過ぎで競技中にこけてくれれば良いんですけど。敵に塩を送る結果になりましたかね〜?」
などと考えていた。


結果……



「あっはっは!!いやー、ほんっと期待を裏切らないなあいつは!!あははははげほげほげほ。」
爆笑するロウウを横目に、ルレンがクラハと心配そうに競技場を見詰めている。
「……あれっ、あれっ?リクって走るの苦手なのかな……?」
「いや、運動神経はいいはずだが…勿体ないな」


カナタの思惑通り、見事に競技中にこけてビリになったリクがいた。


「リク〜〜〜;;」
「ごめんってば!他ので挽回するから!頑張るから…!!」
他の白組陣営の級友達に責められ、言い訳をするリクを心配してナナトが覗き込む。
「リク、どこも怪我してない?大丈夫?」
「膝をすりむいたくらいだと思う…」
「嘘吐け、右足見してみ?」
ハズミが割り込んできて、右足首を触るとリクの顔が途端に顰め面になった。
「ほら、痛いんだろ。お前変な転び方してたもんさ」
「テーピングしておけば大丈夫だよ…」
ばつの悪い顔をしてそっぽを向くリクの頭をポンと軽く叩いて立ち上がる。
「とりあえず救護室行ってきな。……走れないようなら、僕が代わりに走ってやるから」
「ハズミ……ありがとう」


兄弟の美談に周囲の級友達が感動している中、冷静な者は走れなくなったらと言わず、今すぐハズミに代わって貰えば、勝てる確率が上がるんじゃないのか?と考えていた。



あと30分ほどで、借り物競争が始まる時間である。

 

幸か不幸か、
借り物競争は多少足が不調であろうとも、運に左右される競技であるからして、欠場ということにはならずにすんだ。
足を湿布と包帯で固定されたリクは、今度は…今度こそは!(マクドール兄弟経由で)ユーリグに良い所を見せようと……後、心配してくれたハズミの為にも!闘志を燃やしていた。


そして、もう一方。

「あ♪」

グランドに並べられたイスの上で携帯を開いたカナタも、別の感情に燃えていた。
届いたメールにはカイルから、「授業が早く終わったので、もうすぐそちらへ着きます」とメッセージが送られてきたのだ。
キラリ☆と次の競技の選手に目を光らせる。
…そして、笑顔で「動けないくらい足強打しましたよね?次の競技出られませんよね?(むしろ僕が強打しましょうか?)」とプレッシャーをかけた。



「えええええええええ!?なんでカナタが出場するの!?」
「借り物競争は僕補欠選手だったんですよー。で、さっき1人欠場選手が出たんで僕が急遽出ることに…」
「嘘くさい!!;」
「いやでもホントだ…;登録されてあるよ;」

ええーなんか納得いかないー、と敵チームからは微妙にブーイングが送られている。

「…ていうか、カナタが出場しようと思うのが変だよね…?」
「多分カイルさんが来るとかじゃないかなぁ…?」
「何企んでんだあのバカナタ…」

何はともあれ借り物競争はスタートした。



―――位置について…よーい、

パーン!と合図が鳴り響き、選手が走り出す。
元々足の速い選手が出る競技でもないので、負傷しているリクもそう遅れることはなく団子になってお題の紙の元まで辿り着いた。
…何故か、カナタもそう抜きん出て走ってはいない。
何か企んでいるというのはわかるものの、それよりもまずは自分のことが優先である。(ユーリグさんに見直してもらいたい!という一念)

(変なお題が出ませんようにっ…!)

必死に祈りつつ、四つ折りにされた紙を開くと―――


「―――――『生卵』…?」


………ゆで卵じゃダメかなぁ?
現実逃避をしつつも、リクは地面に手を着いた。
しかし周りでも『二千円札』やら『パスポート』やら『カツラ』やらの単語を叫んでいるので、難易度はどっこいどっこいだ…。(むしろ持ってこれる人間がいるのか…)

「リクーーー!!生卵なら調理実習の残りが、調理室の冷蔵庫に入ってるから走ってーーー!!」
「ハズミ…!!」

どれだけ耳がいいのか、頼りになる台所番の声にリクは感動しつつ校舎へ走った。

―――で。肝心のカナタであったが…
何故か紙を取り、中を見た瞬間から校門へ走り出していた。
そう。ちょうどタイミングよく、カイルが「こういう学校に通ってるんだ…」と興味深そうに入ってくるところだったのだ。

「カイルさーーーんっっっ!!」
「カナタ…?競技はどうしたの…?」
「今ちょうどその競技の真っ最中なんです!!」
「?」

カイルは首を傾げた。

「借り物競争なんです!」
「借り物?」

何か貸せそうな物を持っていたかとカイルは更に不思議に思った。

「はいっ!カイルさんっv来て下さいvvv」
「僕?」

その時、カイルは少年の手に握られた借り物の紙を見た。
そしてハッ…と目を大きく見開く。


――――――『好きな人』


「……………」

人、人、人、で満ちたグランド…。
カイルの顔にどわぁああと一気に血が昇った。

「はっ離してーーーーーーーー!!!!!;」
「今こそ僕とカイルさんの既成事実(?)を作るんですーーーー!!」

テンションの上がりきったカナタには、カイルの時代劇に出てくる生娘のような「いやぁっやめて離してぇえっ」の台詞は聞こえていなかった。
そして、デュナン家兄弟の「家(うち)から犯罪者を出して堪るかーッ!;」という制止により、なんとかカイルは助かった。


で、当然1着はリクで、カナタは失格である。

「なんか嬉しいけど嬉しくない…っ僕だってそんな借り物引いてユーリグさんと…っ(涙)」
「ぜーたく言ってんじゃないよ!勝ったんだしさ!」

試合に勝って勝負で負けた気持ちのリクだった…。

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