**リレー企画07**

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「……流石に速いですね、完敗でした」
「何、まだ言ってんの?」
 マクドール家に行く前にと、レンとハズミは並んで台所に立っていた。


 ちゃかちゃかと米を研ぐレンに、ハズミは肩をすくめる。
「……なんかもう、僕ばっかり躍起になってて、ハズミは僕の事なんか眼中ありませんでしたよね…!」

 びきっ、と、釜の中の生米が妙な音をたてる。
「え、あ、そんなことないない!気にしてた気にしてた!!」

 ……実際、ハズミはロウウに対する負けん気だけで体育祭に臨んでおり、レンとの対決は結果そうなった、程度の認識だった。

 そもそも、チームが分かれていたとはいえ、普段からなにかとやりあっているカナタやユイならともかく、レンと張り合う理由は、ハズミにはない。

「……レン、なんで今回、そんないっしょけんべだったん?」
「たまにはかけっこでハズミを負かしてみたい、と思ったからですよ。一回も勝てたことありませんから」
「ふーん……」
「…………ハズミこそ、妙に一位にこだわってませんでした?」
「べーつーにー?唯一の特技だもん、誰にも負けたくないじゃん?」
「ふーん……」


 それきり、台所には沈黙が落ちた。





「カっイルさぁぁん!僕の活躍、見てくれましたかぁぁ?」

 数十分後、マクドール家。

 シャワーを浴びてすっきりさっぱりした五つ子は、揃って隣家を訪ねていた。

「うん、頑張ってたね。騎馬戦、あと少しで個人戦だったのにねぇ」
「そこはピックアップしないで下さーい!!」

 カイルの言葉に、カナタがフローリングを滑り転げていく。

「ユーリグさん!お弁当ごちそうさまでした!美味しかったですー!」
「そうですか、お粗末さまでした」
 にこにこ笑うハズミに、ユーリグもにこりと微笑み返す。

「ユーリグさん!お弁当ありがとうございました!すっごく美味しかったです!」
「……それはどうも……ところで」
 続いてリクも礼を述べる。
 ……が、今まで微笑んでいたユーリグは、今度は微妙な表情を浮かべる。
「なにやったんですか、足……」

 捻った上に無茶をしたリクの足は、既にパンパンに腫れ上がっていた。
「いやぁ、ちょっと張り切りすぎちゃいました」
「痛そうですね」
「心配してくれるんですか!?」
「痛いなら帰って頂いて結構ですよ、今日の実習で作ったお菓子を差し上げようと思っただけですからどうぞどうぞお引き取り下さい」
「あぁあああっ!ユーリグさん押し出さないで今足踏ん張れないんですからぁぁっ!!」
「ユーリグさーん、その足相当イッてるんで手加減してやってくださいねー、と。……さて」
 リクを廊下に押し出すユーリグにぼそりと声をかけると、ハズミはくるりと居間のソファに向き直る。


「やぁ、お疲れさんvv」
 そこには、傍らにルレンを置き、そっくり返るロウウが居た。
「見てたよな?一位、獲ってやった」
「うんうん、見てた見てた。速かったなぁ!」
「約束だ。今後一切、ルレンさんにちょっかい出すの、やめてもらうからな」
「ん〜、少し違う」
「は!?何が!?」
「僕が約束したのは、ルレンに『無用』のちょっかいかけるのをやめる、だったよな?」
「は!?ちょっかいに有用も無用もあんのかよ!?」
 肩をそびやかすロウウに、ハズミが歯を向く。

「……ええとね……あるんだ、それが……」
 そこにおずおずと割って入ったのは、今まで困った表情で成り行きを見守っていたルレンだった。
「……る……ルレンさん……?」
「ごめんね、あのね、そもそも僕、ロウにちょっかいかけられた事なんてないんだよ?」
「…………へ?」
「コミュニケーションなの、ただの。ちょっとだけオーバーに見えるかもしれないけど……」
「……え……えっと……」
「ご、ごめんね、本当にごめん……!だから、これが『ちょっかい』なら、全部『有用』なの」
「………サギだ――……!!」
 弁明しているのがルレンではつっかかる事も出来ず、ハズミはその場に崩れ落ちる。
「僕は約束は守るからね。『無用』のちょっかいは死んでも出さない。安心したまえ」
「ロウ、こっちも約束だよ。ハズミに謝って」
「あー、ハイハイ……仔猫ちゃんは厳しいねェ」
「え?」
 ルレンの言葉に、ロウウはソファから下り、床に膝をつく。
「すまなかったな、わざと煽るような事言って。お前さんがルレンの事、大事に思ってくれてるようで嬉しかったよ」
「…………は?」
 不気味な程穏やかなトーンで話すロウウに、ハズミの目は点になる。
「いやね、お前さんとこの末っ子。アレに四男焚き付けるよう言われて」
「…………あ゛?」
 瞬間、点だったハズミの目が獣のそれになる。

「えっ、あっ、しっぽ頭さん!今それカミングアウトしちゃうんですか!?」
「証人は多い方がいいと思って。はい、これ証書ね」
「あ、ほんとだ」
「カナタの字ですね」
 ロウウがどこからか取り出した紙片には、しっかりとカナタの署名が入っている。
「……レポートの手伝い、って事は……ロウさん自分ちでやるんだよね?」
「うん。資料全部家だし」
 書面を読んだハズミが尋ねると、ロウウは首を縦に振った。
「多分一週間くらい借りるけどいーい?」
「い…っ!?聞いてませんよ、一週間なんて!」
「……イイですよ一週間でも一ヶ月でもvvこの愚弟でよろしければどーぞお役立て下さいvv」
 抗議の声を上げた弟を、ハズミは満面の笑顔で押し遣る。
「その間泊まり込みでvv生活費そっちもちでお願いしますねvvラッキィ生活費浮いたァ♪」
「あー、その位は持つよ、そのかわり睡眠時間ないけどいい?」
「構いませんvv」
「構います――!カイルさん!僕売られちゃいます――!!」
「売られるなんてそんな……ちょっとロウウさんのお手伝いするだけだよ、大丈夫」
「いいえ!あの人なにげに有言実行タイプです!きっとやりますよ!!」
「カナタ、自分で約束したんでしょう?だったら、ちゃんとお手伝いしなくちゃ」
「……売られました――!!」
 カイルにまで諭され、ここにカナタの軟禁生活が決定したのである。


「……あれ、これ読むと……僕が本気になったら、それでよかったわけだよねえ」
「うん」
 証書を繰り返し読んでいたハズミが、ある事に気付いた。
「……僕が一位取れなかったらどうなってたの?」
「お手伝いが二人になってたの。いやー残念だなぁ」
「……自分で自分を守ったね僕……!!」
 ソファに座り直し、けらけら笑うロウウの姿に、ハズミの背を冷や汗が伝い落ちた。


「あ、そうだハズミ、これ」
「ん?なんですか?」
 ルレンが声を掛けると、ほっとしたような表情でハズミは振り返った。
「ライブのチケット。もしよかったら、見に来てね」
 と、ルレンは白い封筒をハズミに手渡す。

「え…っ、だって、白組負けちゃいましたよ?」
「本当はね、ちゃんと人数分あったの。ロウに口止めされてて。ごめんね」
「……あ……いえ……その事はいいんです。でも、チケットのお支払はちゃんとしますから」
「いいの。騒がせちゃったお詫び…にもならないけど…」
「そんな!こちらこそ、ご迷惑おかけしましたし……」
「………ハズミ?」
「は、はいっ」
「…僕なんかの事、心配してくれてありがとう。……嬉しかった」
 ハズミを見上げてルレンはふわりと微笑む。
「は、え、えっと……いえ、あの……余計な心配だったみたいで……すみません」

「はいはい!ハズミ君お腹空いたでしょうおやつをどうぞ!!」
「あだだだだだ!ユーリグさん痛いですいたたたた!う、腕つねらないで下さーい!」
 二人の間の空気にいち早く気付いたユーリグが、すかさずハズミの腕をひっぱり、ダイニングへと引きずっていった。





「今日はお疲れ様ー」
「…………」
「紅組勝ったね、おめでとー」
「…………」
「?レン君?」
「………すみませんでした!!」

 マクドール家の、二階へ続く階段。
 その一番下で、レンとケイは並んで座っていた。

「へ?何?どうしたの??」
 黙っていたと思ったら、突然がばっと頭を下げたレンに、ケイは目を白黒させる。

「せっかく……ケイさんに指導して頂いたのに、ハズミに負けてしまいました……」
「…………甘い。」

 ぺすっ。

 やおら、ケイが下がったままのレンの頭にチョップを入れる。
「!?!?」
「レン君甘い。陸上はそんなに簡単じゃないよ?」
「……え?」
「仮にもハズミ君は、半年前まで三年間、走ってきてるわけなんだから。走る為の身体が、きちんと出来てるでしょう?」
「は……はい……」
「勿論、勝てる確率が全くなかったわけじゃないけどね。残念ながら、ハズミ君の方が今はまだ速いみたい」
「……はい……」
「落ち込んでる暇ないよ?まだあと二回、チャンスがあるんだから!」
「……え……」
「でしょう?」
 伏せていた顔を上げたレンに、ケイはにっこり笑ってみせる。
「僕でよかったら、またフォームとかみるからさ。一回負けたくらいで諦めちゃ駄目だよ」
「……は……はいたっ!!」

 唐突に、レンの後頭部が後ろから踏み付けられる。

「あーダメダメ、こいつ要領いい分打たれ弱いから。やっぱりハズミにゃ勝てなかったか」
「……なんでユイ君が二階から降りてくるわけ……?」
 踏み付けた足の主、ユイを、ケイがイヤそうな顔で見上げる。
「こらユイ、弟の頭は踏み付けるものではないだろう」
 ユイの後から降りてきたユウが、そっとたしなめるのを見て、ケイの顔から血の気が引く。
「ぅなっ!?ちょっと!まさかユウ、ユイ君と二人きりで上に居たとか!?」
「残念、三人でした〜」
「あ、テッド!!」
 ユウの更に後ろから、ひらひらと手を振るテッドを見留めると、ケイはほっと息をつく。
「よ、よかったぁ〜…!」
「…相変わらずのブラコンっぷりだな、ちっこいの。いいからどけ」
「ちっこい言うな!!」
「なんでもいいから足退けてくれませんかっ!重いですっ!」

「お前達……そんなところでケンカするのやめなさい……」
 足元で始まってしまったケンカに、ユウはため息をつく。
 そんなやりとりを眺め、テッドがしししと笑ってみせた。
「モテモテですな、お兄様?」
「……勘弁してくれ」



 了

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